「小児人工内耳適応基準」の見直しの概要と解説

福祉医療・乳幼児委員会


 幼小児の聴覚障害について、早期発見と早期療育が必要と言われてきたが、それは補聴器の適合と療育を早期に行うことを意味していた。今日、乳幼児聴力検査の進展でこれらはかなり達成され、さらには補聴器による療育に限界が認められる場合には人工内耳という選択肢も開けてきた。今回の見直しでは、聴覚障害児に対する人工内耳が一定の効果を示してきていることを踏まえて、その適応年齢を1歳6カ月、聴力閾値では平均聴力レベル90dB以上と枠を広げた。また、聴力閾値だけでなく、補聴レベルについても記載した。補聴レベルが小児の生活環境において話声レベルを超えることとしたのは、そうでない場合には必然的に聴覚・音声言語によるコミュニケーションが困難となり、十分な聴覚活用が困難になる例が多いと予測されるためである。その目安は、補聴レベルで55dB程度と考えられる。
 その一方で、適応基準をより厳格に規定した。それは人工内耳を用いて、今後生活していくこととなる幼小児では慎重に適応を見極める必要があるからである。その問題点を列挙すると、
  1. 年齢あるいは発育のために、手術を受けることについて自己の意思で決定することができない。
  2. 年齢あるいは発育のために、正確な聴力を把握しにくい場合がある。
  3. 人工内耳は蝸牛内に電極を埋め込む手術であり、残聴を失う可能性がある。
  4. 聴力レベルが90dB以上であっても、療育によっては補聴器で対応できる場合も実在する。
  5. 療育の現状は、地域によってかなりの違いがある。
などであり、したがって家族、保護者はもちろん、手術施設内外の聴覚・音声言語指導の療育にかかわる人達との意見の一致が欠かせないと考え、特にその項目を設定した。
 なお、言語を獲得した後に聴力障害を生じた幼小児について、効果が不十分な補聴器装用のみでは音声言語を喪失する可能性や、構音障害についても言及した。
 重複先天性障害については、必ずしも禁忌にはならない。合併する障害にもよるが、両者の障害程度を総合的に判断すべきであり、1) コミュニケーションに困難を伴うほどの重度の知的障害、2) 広汎性発達障害、3) 注意欠陥・多動障害、4) その他言語発達に影響を及ぼしうる高次脳機能障害、などが含まれることを想定した。この場合も、術後の療育にかかわる人達の、理解と見解の共通性が求められる。ことに低年齢では見過ごされるか、顕著に表出していない障害の場合もあるので、全体的な発達・発育の観察を怠ってはならない。
 聴覚障害の原因が内耳よりも中枢側にあると推定される場合には、人工内耳術後の効果についての慎重な見通しが必要であり、特にこれに言及した。ただし、皮質聾は人工内耳の適応としない。
 最後に、この適応基準は時代の変化や医学の進歩に伴って適宜見直しを図る必要があることを付言したい。