口のなかのがん(癌)は誰が診るの?

耳鼻咽喉科と歯科口腔外科

 医師の仕事は?多くの方たちは「病気を診断して治療すること」と答えるでしょう。では、歯科医師の仕事は?同じく「歯の病気を診断して治療すること」と答えると思います。医師と歯科医師の仕事には違いがあるだけでなく、医師には行うことが認められていますが、歯科医師が行ってはならない医療行為や、扱ってはならない身体の部位があります。

 歯科のなかには「歯科口腔外科」という口のなかの手術を主に行う診療科があり、歯科医師が診療を担当しています。「歯科口腔外科」(単に「口腔外科」とも呼ばれています)では口のなかのがん(癌)を治療することがありますが、その際に医師にしか認められていないはずの医療行為や診療行為を、歯科医師が行うという逸脱した行為が、いくつかの診療所や病院で見受けられることがわかりました。特に、耳鼻咽喉科は同じ口のなかの病気を治療する科であるため、歯科口腔外科の診療領域を明らかにすることが必要になります。

 日本耳鼻咽喉科学会は以前から、歯科口腔外科の診療領域に関する問題を重視して、その解決に努めてきました。厚生省(現在の厚生労働省)もこれを問題視して、平成8年に「歯科口腔外科に関する検討会」が開催されました。そこでは、歯科口腔外科の診療領域の対象が定められた上で、歯科と医科の協力の必要性が強調されています(厚生省議事録:第1回検討会(PDF)第2回検討会(PDF))。そして、日本医師会、日本歯科医師会は下記の「検討会における意見のまとめ」を医師と歯科医師に周知することを申し合わせています(この間の経緯については日耳鼻専門医通信第49号に記載されており、下記のPDFでご覧いただけます)。この時点で歯科医師の逸脱した医療行為がどのようなものか、医師の協力が必要なのはどのような時かについては一応の決着がなされました。

 しかし、日本口腔外科学会広報第24号(平成8年発行)によれば、1996年4月24日と5月16日に「歯科口腔外科に関する検討会」が開かれ、「これらは法的な力は持っていないが、今後診療領域等の問題が起こった場合には参考にされるかもしれない、という申し合わせと合意がなされた」と記述されています。この記載から見る限り、歯科口腔外科医は、検討会の見解を正しく認識しているとは思えません。

 もちろん多くの歯科口腔外科医は前述の検討会における意見決定に基づいた診療をしていると思います。しかし、今でも診療施設によっては、歯科口腔外科領域を逸脱した診療が歯科医師によってなされている現実があります。

検討会における意見のまとめ
歯科口腔外科の診療領域
標榜診療科としての歯科口腔外科の診療領域の対象は、原則として、口唇、頬粘膜、上下歯槽、硬口蓋、舌前2/3、口腔底に、軟口蓋、顎骨(顎関節を含む)、唾液腺(耳下腺を除く)を加える部位とする。
歯科口腔外科の診療領域における歯科と医科との協力関係
歯科口腔外科の診療の対象は口腔における歯科疾患が対象になるが、特に、悪性腫瘍の治療、口腔領域以外の組織を用いた口腔の部分への移植、その他治療上全身的管理を要する患者の治療に当たっては、治療に当たる歯科医師は適切に医師と連携をとる必要がある。

 この「まとめ」には、歯科口腔外科の診療できる身体の部位が記載されています。また、悪性の口腔疾患(舌がんや他の口腔がん)の治療は歯科医師単独で行うのでは十分でないことを指摘しています。このように口のなかの病気について診断・治療を受ける際には、これらの歯科口腔外科の診療領域や役割を理解した上で、診療科を正しく選択することが大切です。

<参考資料>
PDF 専門医通信 第49号 金子敏郎顧問の報告文全文(PDF 731KB)

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