一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会

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「たべる」と「のみこむ」

鼻腔、口腔、舌、咽頭、喉頭蓋、喉頭、声帯、気管、食道 「たべる」、「のみこむ」ことは、それ自体が大切で、食文化という言葉があるように、その国や土地と密接な関係のある文化的な意味を持つ行為です。日本では最近このことが重要視されるようになってきました。グルメ雑誌、テレビのグルメ番組の多いことはその一部を表しているものだと思われます。たべる楽しみという言葉があります。たべるには味わうことが含まれ、のみこむことで完結します。一方、のどごしもまた重要です。ほとんど口の中で味わわずに、のどごしを大切にする食物もあります。もちろん、口の中で味わうときには、口から鼻にまわる香りも食文化と大いに関係します。
 従って「たべる」、「のみこむ」に支障があると、命を維持することと同時に、人間にとっては生きる上での大きな楽しみを失うことになります。例えば、口腔(舌)・咽頭などの癌で、手術によって口腔(舌)や咽頭の一部を切除しなければならないことがあります。このような場合には「たべる」ことや「のみこむ」ことに支障が起こります。不幸にしてこのような状態になった患者さんは、「もう一度口から食事をしたい、たべられるのならどんな手術でもいいからやってほしい」と食に対する切実な思いを話されます。
 このように「たべる」ことや「のみこむ」ことは、普段は何気なく行われている行為ですが、支障が生じれば大変重要な機能であることが分かると思います。
 「たべる」は医学的には、食物を食べ物であると認識し、それを口に入れ、かみくだき、のどから胃に送り込むまでの働きを指します。同様に「のみこむ」は、口に入れた食べ物を胃に送り込むことを意味します。共に耳鼻咽喉科が専門領域としている口腔、咽頭、喉頭や頸部食道がこれらの働きの舞台となっています。
 「のみこむ」ためには、食べ物を口から食道へ送り込む力(圧)が必要です。その力が有効に働き、食べ物が鼻腔に逆流しないように、鼻腔と口腔の間が閉じられます。同時にのみこむ動作が始まりますが、食べ物が空気の通り道である喉頭(喉の奥で、声帯がある場所)や気管(肺への空気の通り道)に落ち込まないように蓋(喉頭蓋)をして、食道に入るようにしなければなりません。これら一連の動きには多くの神経や筋肉の共同運動が必要です。
 「のみこめない」ことを「嚥下障害」と呼びます。具体的には食べ物を口から胃までうまく運ぶことができない状態のことです。嚥下障害は次のようなときに起こります。1.炎症などで痛みが強いとき。2.脳卒中の後遺症、神経や筋肉の病気などがあるとき。3.口の中、あるいは咽頭や喉頭のがんがあるときなどです。
 このように、いろいろな原因で嚥下障害が起きますが、嚥下障害の治療を行う前に原因は何か、またどのくらいのみこめる(のみこめない)かを検査する必要があります。がんや炎症のような原因は、内視鏡検査など耳鼻咽喉科一般の診察で調べることができます。神経や筋肉の病気を疑う場合は内科医の協力が必要なこともあります。嚥下障害が疑われる場合には、かかりつけ医がいればまずその先生に相談し、必要に応じて耳鼻咽喉科への紹介を受けて下さい。耳鼻咽喉科を直接受診して頂いても良いでしょう。
 従来は、のみこむ能力を調べる方法として、エックス線で映る液体やゼリーをのんで、ビデオに撮影して調べる方法(嚥下造影検査といいます)が代表的でした。最近では、先に述べた内視鏡で喉頭を観察しながら種々の食品をのみこんで観察する方法(嚥下内視鏡検査といいます)が普及しつつあります。この検査は、のど用の内視鏡の扱いに慣れた耳鼻咽喉科医が最も得意としているところです。
 治療は障害の原因によって異なりますが、食物のかたさやとろみを工夫することで残された「のみこむ」機能を上手に使うなどの、リハビリテーションが中心になります。リハビリテーションで良くならない場合、手術を考えることもあります。嚥下障害の手術は、耳鼻咽喉科医が専門としています。