一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会

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委員会からのお知らせ

委員会からのお知らせ

耳鼻咽喉科診療所医師を対象とする「ST雇用の実態調査2019」の集計結果

日耳鼻渉外委員会
担当理事:土井 勝美
委員長:三輪 高喜
委員:中村 晶彦 日高 浩史 任 智美
ST雇用促進WG:中川 尚志、宇高 二良、渡嘉敷 亮二、西澤 典子、
立石 雅子、谷合 信一、清水 充子、鈴木 恵子

はじめに

 日本耳鼻咽喉科学会は、平成27年度の事業計画の一つとして、言語聴覚士(以下ST:Speech-Language-HearingTherapistと略す)の雇用促進を取り上げた。この背景には、耳鼻咽喉科診療、特に耳鼻咽喉科診療所の将来像を考えた際に、従来の耳鼻咽喉科診療に加えて、聴覚障害、平衡障害、咀嚼・嚥下障害、音声・言語障害、そして発達・認知障害に対するリハビリテーションなどのより特化した耳鼻咽喉科医療を提供できるよう、これらの付加医療の提供に従事するST、臨床検査技師、理学・作業療法士を耳鼻咽喉科の診療業務の中に組み入れて行く必要があることがあげられる。しかし現在、耳鼻咽喉科診療所が上記のメディカルスタッフを雇用することには多くの課題が残されているのは明白である。
 当渉外委員会では、平成27年度、調査時点でSTを雇用しているいくつかの診療所を抽出し、同診療所で診療を行っている耳鼻咽喉科医師に、ST雇用の現状・課題について情報の提供をお願いした。また、各地方部会代議員の中で、STを雇用していない耳鼻咽喉科診療所の医師にもご協力をお願いして、STの雇用に関する調査時点での認識を調査した。さらに、実際の調査に際しては、現在ST雇用ありの診療所の医師、ST雇用なしの診療所の医師に加えて、それらの診療所に勤務するST自身からも意見を聴取した。回収した調査票の解析結果は、日本耳鼻咽喉科学会会報(119巻5号、P814-825)ならびに学会ホームページ上で公開した。
 さらに、渉外委員会では、平成28・29年度、耳鼻咽喉科診療に携わるST雇用の実態調査を全国規模で実施する目的で、ST雇用促進ワーキンググループ(ST雇用促進WG)を委員会内に新設し、平成28年10月に第1回WG会議を開催し。具体的な調査の進め方、調査票の内容等について十分に審議した上で、平成29年7月から3か月間にわたり、日耳鼻専門医研修認可施設631施設を対象とする「ST雇用の実態調査」を実施した。359施設から回答があり、回収した調査票の解析結果は、同様に、日本耳鼻咽喉科会報(121巻12号、P1555-1563)ならびに学会ホームページ上で公開した。
 そして、渉外委員会およびST雇用促進WGでは、平成30・31年度、耳鼻咽喉科診療所におけるST雇用の実態をより詳細に把握する必要があるとの認識から、対象範囲を全国規模に拡大し、マークシート調査票を使用して、日耳鼻会員である耳鼻咽喉科診療所の医師を対象とする第3回目の「ST雇用の実態調査」を実施した。本稿では、同調査の集計結果について報告する。

対象と方法

 「ST雇用の実態調査」際して調査票をお届けしたのは、40歳台(955名)、50歳台(1,666名)の診療所に勤務する日耳鼻会員で、マークシート調査票を郵送し、その調査票を回収、集計して解析を行った。調査票の内容は、渉外委員会とST雇用促進WGとで協議した上で決定した。実態調査で使用した調査票の内容を示す(図1)。

結果

 調査票を送付した2,621名の診療所医師のうち1,614名(61.6%)から回答が得られた。質問項目により、複数回答があったり、無回答や無効回答もあるため、データ総数には変動がある点、ご了承いただきたい。本調査にご協力とご支援を頂戴した先生方には、この場をお借りして厚く御礼を申し上げる。

1.ST雇用の実態

  1. 回答のあった1,614名中、常勤STを雇用している先生は26名(1.6%)、常勤STを雇用していない先生は1,587名(98.3%)であった。非常勤STを雇用している先生は38名(2.4%)、非常勤STを雇用していない先生は1,573名(97.5%)あった。 (表1
  2. 雇用しているST数については、常勤STを雇用している26診療所の中で、常勤ST1人が14施設(53.9%)、2人が5施設(27.2%)、3人が4施設(15.4%)、4人が2施設(7.7%)、そして5人以上の雇用が1施設(3.9%)であった。一方で、非常勤STを雇用している38診療所の中では、非常勤ST1人が33施設(86.9%)、3名以上が5施設(13.2%)であった。(表2
  3. STの職務内容については(複数回答)、発声・音声言語障害が24施設(40.7%)、摂食・嚥下障害が15施設(25.4%)、成人の言語・認知障害が10施設(17%)、小児の言語・認知障害が24施設(40.7%)、聴覚障害が49施設(83.1%)、そして平衡障害が11施設(18.6%)であった。(表3)STが1週間に担当する平均患者数については、1人~20人が43施設(72.9%)、21人~50人が13施設(22%)、51人~100人が1施設(1.7%)、101人以上が2施設(3.4%)であった。(表3
  4. STの1日あたりの職務時間について、~60分、61分~120分、121分~180分、181分以上の4群に分けて職務内容別に検討した。発声・音声言語障害では、~60分が13施設(54.2%)、61分~120分が6施設(25%)、121分~180分が1施設(4.2%)、181分以上が4施設(16.7%)であった。摂食・嚥下障害では、~60分が13施設(86.7%)、61分~120分が1施設(6.7%)であった。成人の言語・認知障害では、~60分が6施設(60%)、61分~120分が2施設(20%)、121分~180分が1施設(10%)であった。小児の言語・認知障害では、~60分が8施設(33.3%)、61分~120分が4施設(16.7%)、121分~180分が6施設(25%)、181分以上が6施設(25%)であった。聴覚障害では、~60分が13施設(26.5%)、61分~120分が9施設(18.4%)、121分~180分が9施設(18.4%)、181分以上が18施設(36.7%)であった。そして、平衡障害では、~60分が6施設(54.6%)、61分~120分が3施設(27.3%)、181分以上が2施設(18.2%)であった。(表4
  5. ST雇用により、どの職務内容で保険請求が生じるのかについては(複数回答)、発声・音声言語障害が11施設(18.7%)、摂食・嚥下障害が8施設(13.6%)、成人の言語・認知障害が7施設(11.9%)、小児の言語・認知障害が15施設(25.4%)、聴覚障害が41施設(69.5%)、そして平衡障害が10施設(17%)であった。(表5

2. ST雇用の問題点

  1. ST雇用はどのようにして行われたかについては(複数回答)、日本ST協会からの紹介が2施設(3.4%)、各都道府県のST協会からの紹介が3施設(5.1%)、通常の求人広告が22施設(37.3%)、インターネット上の紹介サイトが3施設(5.1%)、STからの紹介が13施設(22%)、医師・他病院からの紹介が21施設(35.6%)であった。(表6)ST雇用に際して、休職・再雇用について何らかの取り組みをしているかどうかについては、取り組み有りが13施設(22%)、取り組み無しが43施設(72.9%)であった。(表6
  2. ST雇用を考えるかどうかについては、現在雇用を考えているが187名(11.6%)、雇用を考えていないが1.406名(81.1%)であった。(表7)もしSTを雇用するとしたら、どの職務内容のSTを優先的に雇用したいかについては(複数回答)、発声・音声言語障害が463名(28.7%)、摂食・嚥下障害が479名(29.7%)、成人の言語・認知障害が66名(4.1%)、小児の言語・認知障害が417名(25.8%)、聴覚障害が662名(41%)、そして平衡障害が206名(12.8%)であった。(表7)STを雇用する際に特別な設備投資が必要かどうかについては、必要とお考えの先生が941名(58.3%)、必要ではないが556名(34.5%)であった。(表7
  3. STの雇用が困難かどうかについては、困難が1,163名(72.1%)、容易が32 名(2%)、どちらとも言えないが395名(24.5%)であった。(表8)ST雇用が困難と考える理由については(複数回答数)、職務対象が少ないが680名(58.5%)、リハビリテーションを行う予定がないが379名(32.6%)、補聴器業者の協力があり必要性を感じないが138名(11.9%)、ST雇用に必要な設備がないが468名(40.2%)、経営的に収支が合わないが799名(68.7%)、看護師・臨床検査技師の増員を優先するが252名(21.7%)、施設認定の事務手続きが煩雑であるが112名(9.6%)、そして雇用を考えてもSTがすぐに見つからないが222名(19.1%)であった。(表8
  4. ST雇用により、耳鼻咽喉科診療の質が向上し、診療の収益も上昇するのであれば、ST雇用を考えますかについては、ST雇用を考えるが817(50.6%)、考えないが205名(12.7%)、わからないが569名(35.3%)であった(表9)。ST雇用に関する情報提供が必要かどうかについては、情報提供は必要が789名(48.9%)、必要なしが185名(11.5%)、わからないが617名(38.2%)であった(表9)。希望する情報提供の内容については(複数回答)、日耳鼻総会時のシンポジウム、パネル、講演が404名(25%)、関連学会時のシンポジウム、パネル、講演が230名(14.3%)、日耳鼻会報や関連学会誌上が705名(43.7%)、各都道府県の地方部会・医会からが929名(57.6%)であった(表9)。
  5. 本調査票では、STの生涯学習、認定ST制度について(Q24)、また、ST雇用全般に関して(Q25)、自由記載での記載を依頼したところ、143名の先生方から貴重なご意見を頂戴した(表10)。

まとめ

 平成27年度から日耳鼻がこれまで3回実施したST雇用実態調査の総括として、当渉外委員会から以下の提言を行いたい。

  1. 日耳鼻および医会として、ST雇用の促進のために、常勤および非常勤STの雇用によりいかに診療所の収益が増加するか、ST雇用による職務内容の拡大により診療所の医療の質がいかに向上するか、ST雇用による咀嚼・嚥下障害や発達・認知障害への参画により診療所—地域医療間の連携がいかに深まるか、診療所の地域医療への貢献がいかに高まるかを、さまざまな教育・啓蒙の機会を通して日耳鼻学会員に情報提供することが重要である。
  2. 地域医療との連携を深め、超高齢化社会における音声・言語障害、咀嚼・嚥下障害、発達・認知障害、聴覚障害、そして平衡障害・めまいなどに対するさまざまなリハビリテーション医学、予防医学にも診療所医師の積極的な参入を図ることで社会全体に大きな還元を行うことを企図して、未来型の耳鼻咽喉科診療所のモデル化事業をさらに推進していくことは重要課題の一つである。
  3. STが担当する検査やリハビリテーションに関する診療報酬の改定、またリハビリテーション料の算定に際しての施設基準の緩和などにも日耳鼻および医会が積極的な働きかけを行うことで、耳鼻咽喉科診療所におけるST雇用をより円滑に進めることが可能になると考えられる。
  4. 認定ST制度などを利用したST生涯教育の確立を、言語聴覚士協会との連携の中で推進していくことも重要で、STの卒前・卒後教育への日耳鼻および関連学会のより積極的な取り組みが求められる。

参考文献

  1. 飯野 ゆき子、土井 勝美、廣瀬 肇、三輪 高喜、三代 康雄、中村 晶彦:「診療所における言語聴覚士雇用に関するアンケート調査」の集計結果。日本耳鼻咽喉科学会会報 119巻5号 Page814-825, 2016.
  2. 髙橋 晴雄、土井 勝美、三輪 高喜、任 智美、中村 晶彦、中川 尚志、宇高 二良、渡嘉敷 亮二、西澤 典子、森 浩一、立石 雅子、谷合 信一、清水 充子、鈴木 恵子:日耳鼻専門医研修認可施設を対象とする「ST雇用の実態調査2017」の集計結果。日本耳鼻咽喉科学会会報 121巻12号 Page1555-1563, 2018.

謝辞

 ご多忙の中、本アンケート調査にご協力とご支援をいただきました先生方に深謝致します。また、本報告書の作成に際して、きめ細やかなご指導を頂戴しました廣瀬 肇先生(日耳鼻渉外委員会元相談役)にも、厚く御礼を申し上げます。

PDFファイル 図1 診療所医師用アンケートの内容

PDFファイル 表10(Q24-Q25)

2020年4月27日掲載