補聴器をつけたら「聞こえのトレーニング」を始めましょう

 加齢などが原因で聴力が下がった場合、それを早期に発見し、状況に応じて補聴器で「聞こえ」を補うことは、難聴による生活の不自由を改善させ、QOL(生活の質)を維持するためにとても大切なことです。ところが、せっかく補聴器をつけたのに、「あまり役に立たない」「うまく付き合えない」という悩みが生まれるケースは決して珍しくありません。

補聴器の使い始めは「不快」なのが当たり前

 難聴とは、加齢性難聴を代表とする何らかの障害によって、脳に伝わる音の刺激が弱くなってしまった状態です。補聴器の役割は、入ってきた音を増幅させて、聞き取りに必要な音の刺激を脳に送ることです。
 ただし、耳や補聴器の役割はあくまでも音の刺激を脳に伝えることです。実際に音を認識して「聞く」役割は脳が担っているのですが、十分な音の刺激が伝わりにくい状態が長く続いたことで、脳のほうも「難聴の脳」に陥っています。音の刺激の少ない世界で過ごしていた「難聴の脳」にとって、日常生活の音のレベルでさえ、非常にうるさく不快な音と感じてしまいます。言わば、静かな森の中から都会の喧騒の中に放り出されたようなものなので、補聴器をつけ始めたばかりの人が、「うるさくて耐えられない」と感じるのはそのせいなのです。

地道なトレーニングで「聞こえる脳」に

 そこで大切なことは、長い時間をかけて段階的に音量をあげていくトレーニングを行うことです。望ましいのは、朝起きてから寝るまで、毎日しっかりと補聴器をつけることです。最初の1−2週間は不快感を強く感じるかもしれませんが、続けていくうちに脳が補聴器の音にも慣れていき、次第に「難聴の脳」から「聞こえる脳」に変わっていきます。
 また、補聴器の音に慣れるとともに、「言葉を聞き取る」トレーニングも必要です。家族や友人などと会話をすることはとても重要です。また、日常生活を制限せずに、積極的に外出や趣味などを楽しんで、さまざまな音を意欲的に聞くことを心がければ、音を認識する能力もアップします。

補聴器ライフは医師との二人三脚で

 適切なトレーニングを行って補聴器を上手に利用すれば、「聞こえ」は大きく改善します。もちろん、その前提となるのは、「自分の聞こえに合わせて正しく調整された補聴器」であること。また、聴力は時間とともに変化するので、定期的な検査も欠かせません。そういった意味でも、補聴器を上手く利用する生活は信頼できる専門医との二人三脚で行うことが大切です。
 また補聴器に慣れるまでのトレーニングの間は特に、家族の理解や協力も欠かせません。補聴器を使い始めた家族が補聴器に慣れずに、焦ったり、自信を失ったり、投げ出しそうになったりする様子が見えたときは、周囲のほかの家族一人一人がその気持ちに寄り添いながら、温かい気持ちで励ましてあげてください。

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