世紀の発見を期に誕生した軟骨伝導補聴器

 耳介で集められた音の振動が、外耳道を経て鼓膜に達し、その刺激が内耳に伝わるーー。通常、私たちは音のほとんどをこのような気導聴力で感知しています。一般的に「補聴器」と呼ばれているものは、このような気導聴力を改善する「気導補聴器」のことです。
 実は聞こえ方には別のルートもあります。
 それが、内耳を入れている頭蓋骨に直接振動を与えることによって、音を感知させる骨導聴力と呼ばれるものです。先天的な原因のほか、炎症、外傷、手術などによって外耳道が閉鎖する「外耳道閉鎖症」の患者さんの場合、気導聴力は確保できないため、従来はこの骨導聴力を活用して聞こえの回復が図られてきました。
 それが骨導補聴器と呼ばれるものです。

音の伝達経路はほかにもあった!

 骨導補聴器は聞こえの回復という意味では効果が大きいものの、その効果を維持するためには音を伝える振動子をヘッドバンドで骨に強く固定しなければなりません。そのため、痛みや凹み、発赤、ただれなどに悩まされることも多く、長時間の装用が難しいのが難点でした。審美性に劣るという欠点もあり、埋め込み型の骨導補聴器も開発されましたが、装着には手術が必要になるため、どちらの選択をしても、患者さんは大きな負担を強いられるという問題があったのです。
 ところが2004年、そんな「外耳道閉鎖症」の患者さんに朗報がもたらされました。
 奈良県立医科大学の細井裕司教授が、これまで、気導と骨導の2種類だと考えられていた音が伝わる経路には、もう一つ軟骨を通じた「軟骨伝導」があり、しかもそれが非常に効率よく音を伝えられることを発見したのです。同時に、この音伝導経路を利用する新しい、補聴器、イヤホン、スマートホン、コンピューター端末、ロボットなどを提唱されました。

軟骨伝導補聴器の実用化

 細井教授の発見を期に、西村講師を中心とする奈良医大のチームにより軟骨伝導を活用した軟骨伝導補聴器の開発が進み、2017年11月には、取扱医療機関において販売が開始されました。
 軟骨伝導補聴器の大きな利点は、小型の耳かけ型気導補聴器とほぼ同じくらいの大きさで、耳の軟骨部分に軽く触れる程度に振動子を装着するだけで良好な聞こえを確保できることです。ヘッドバンドは必要ないので骨導補聴器のような装用に伴うトラブルが無く、審美性にも優れ、もちろん手術も不要なので、患者さんの負担は大きく軽減しました。

 

 軟骨伝導補聴器は、「外耳道閉鎖症」や「外耳道狭窄症」の患者さんに優れた効果が期待できます。また、「慢性中耳炎」など、一般的に気導補聴器が適応可能な疾病でも、軟骨伝導型補聴器のほうが、より良い装用効果がみられるケースもあるようです。まだ新しい機器であるため、コスト面において問題は残りますが、自治体によっては公的な助成が受けられる可能性もあります。
 いずれにしろ、補聴器の選択やフィッティングに際しては、専門知識を有する耳鼻咽喉科医の診断と指導を必ず仰ぐようにしましょう。

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