一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会

学会からのお知らせ

突発性難聴、顔面神経麻痺等のステロイド治療における
B型肝炎ウイルス再活性化防止に関する指針(第1版)

指針作成の目的と背景

 近年、悪性腫瘍や自己免疫疾患の治療において、抗癌剤や免疫抑制剤・ステロイドが使用されている。それに伴いB型肝炎既感染者でHBウイルス(以下HBV)の再活性化による劇症肝炎の発症が問題になっている。HBVの再活性化はステロイドや免疫抑制剤の減量中あるいは投与終了後に起こり、劇症肝炎が発症してから抗HBV療法を開始しても死に至ることが少なくない。したがって、悪性腫瘍や自己免疫疾患の治療においては、HBs抗原およびHBc抗体、HBs抗体を測定し、HBs抗原陽性例には核酸アナログを投与し、HBs抗原陰性でHBc抗体またはHBs抗体陽性患者には定期的にHBV-DNAを測定し、HBV-DNAが陽性になった時点で核酸アナログを投与することが推奨されている。しかし、これらHBVの再活性化防止に関する指針は、主として悪性腫瘍や自己免疫疾患を対象に作成され、しかもステロイド単独投与に関しては2週間を超えて連続投与するものが対象になっている。したがって、これらの指針を突発性難聴や顔面神経麻痺(Bell麻痺、Ramsay Hunt症候群)など、ステロイド投与が1-3週間で終了する疾患に適用することは難しい。
 以上の背景から、突発性難聴や顔面神経麻痺等のステロイド治療におけるHBV再活性化の予防策について日本肝臓学会の意見も参考に検討し、以下の指針を作成した。 

指針

 突発性難聴や顔面神経麻痺、あるいは低音障害型感音難聴、自己免疫疾患などの患者に対し全身ステロイド治療を行う場合、ステロイド投与と同時にHBs抗原の検査を行う。HBs抗原が陽性の場合はB型肝炎を発症する可能性があるため、治療を継続しつつ肝臓専門医に紹介する。また、HBV の再活性化はステロイドの投与量より投与期間に大きく依存することから、HBs抗原が陰性でも2週間を超えてステロイドを全身投与する場合はHBc抗体とHBs抗体を測定し、いずれかの抗体陽性の場合はHBs抗原陽性例と同様にB型肝炎を発症する可能性があるため、治療を継続しつつ肝臓専門医に紹介することが望ましい。但し、HBVワクチンの接種歴のあるHBs抗体単独陽性者は除く。
 なお、免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策の指針を有する施設においては施設の指針を優先する。


PDFファイル 突発性難聴、顔面神経麻痺等のステロイド治療におけるB型肝炎ウイルス再活性化防止に関する指針フロー図 第1版

一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会

2020年12月10日掲載