難聴治療の最前線。進化し続ける人工内耳とは?

 外耳や中耳の障害で起こる伝音難聴は、薬物投与や手術によって、聴力の回復が期待できます(聞こえを良くするための難聴改善手術)。一方、内耳にある蝸牛や脳の障害などによって起こる感音難聴の場合、補聴器で聞こえを補うことはできても、その機能を回復させるのは残念ながら今の医学では困難だと言わざるを得ません。
 ただし、蝸牛の障害が原因となっている場合には、人工内耳手術という選択肢が検討されることがあります。

人工内耳は「蝸牛」の仕事を代行する

 外耳、中耳を通って内耳まで届いた音の振動は、蝸牛の中の有毛細胞によって電気信号に変換されます。この信号が聴神経を介して脳へ伝えられて初めて私たちは音を認識するのです。これが正常な聞こえの仕組みですが、人工内耳とは、簡単に言えば、蝸牛の代わりをしてくれる人工臓器。つまり、キャッチした音を人工的に電気信号に変え、その信号で直接聴神経を刺激する装置なのです。

人工内耳の仕組み

 人工内耳は、音を集めるマイク(図1-①)、その音を電気信号に変換するスピーチプロセッサー(図1-②)、信号を体内に送る送信コイル(図1-④)、および、スピーチプロセッサーと送信コイルを繋ぐケーブル(図1-③)で構成される体外装置と、耳介の後ろの皮膚の下に埋め込まれる受信装置、蝸牛の中に埋め込む電極とで構成されます。体外装置の主流は耳掛け式補聴器に似たタイプですが、近年、耳に掛けず後頭部に取り付けるコイル一体型の体外装置も製品化されています。(図2)いずれのタイプも、体外の送信コイルと皮膚の内側にある受信装置は、磁石の力で頭皮を介して接しています。


 マイクで集めた音は、スピーチプロセッサーで電気信号に変換され、送信コイルを介して耳介の後ろに埋め込んだ受信装置へ送られます。受信装置に伝わった信号は中耳を通って、蝸牛の中に埋め込まれた電極から聴神経を介して脳へ送られ、こうして音が認識されるのが、人工内耳の仕組みです。



人工内耳が適応される人とは?

 1994年に人工内耳手術の保険診療が可能になったこともあり、日本での手術件数は年々増加し、今では年間1000例超の手術が行われるようになりました。
 またこれまで聞き取りが難しかった電話の音声について、マイクを介さずスピーチプロセッサーに送るタイプが製品化されるなど、人工内耳は目覚ましい進化を遂げています。  ただし、人工内耳の手術は誰でも受けられるわけではなく、その適応が検討されるのは、補聴器の装用効果がほとんど認められない方です。

人工内耳の適応について

 2014年には低周波数の聞こえが残っている人を対象とする残存聴力活用型人工内耳も登場しました。さらに2017年に、成人の高度感音難聴の方で補聴器を十分に活用しても、ことばの聞き取りが十分ではない(最高語音明瞭度が 50%以下)方も適応となりました。なお、小児の適応年齢は原則1歳以上となります。

術後のリハビリテーションは欠かせない

 人工内耳手術を受けたからといって、誰もがその直後からことばが聞き取れるようになるわけではありません。また人工内耳を通して聞く音はあくまでも機械的に合成された音でもあるため、根気強いリハビリテーションを行うことが重要になります。リハビリテーション(先天性難聴ではハビリテーションと表現します)には、本人の継続的な積極性と、家族の支援が必要であり、小児の場合は手術前後の複数の専門機関での一貫した支援体制が整っていることも大切です。
 このような環境の整備は必要ですが、人工内耳は聴覚障害があり補聴器での装用効果が不十分な方に対する有力な聴覚獲得法であることは紛れもない事実です。興味のある方は一度耳鼻咽喉科の専門医に相談してみてください。

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