意外と知らない身近な耳鼻咽喉科・頭頸部外科
花粉症の治療法最前線

花粉症の治療の選択肢と最前線の治療法

日本人のアレルギー性鼻炎の有病率は年々増加し,この20年で1.5倍の49%、花粉症は約2.5倍の39パーセントにも。まさに国民病といわれる病気です。
しかし、適切な治療を行っていないため、花粉症の症状を悪化させてしまったり、生活の質(QOL)の低下が長引く方も多くいます。花粉症は仕事や家事効率の低下のみならず、学力、成績、記憶力の低下を指摘する研究調査もあり、早期に治療し、重症化させないことが重要です。

1998年、2008年、2019年の有病率 
1998年、2008年、2019年別の有病率
松原 篤ほか:鼻アレルギーの全国疫学調査2019(1998年,2008年との比較):速報─耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として─.日耳鼻 2020;123:485-490.より許可を得て改変

花粉症治療で知ってほしい3つの基本ポイント

ポイント1 治療の第一歩は花粉症の正しい理解から

治療のスタートは、花粉症をよく知ることから。この病気は、花粉をできる限り体内に入れない工夫が必要です。飛散シーズンはなるべく外出を避ける。外出時はマスク・メガネなどの防御をし、花粉が付着しにくい表面がサラサラした素材を選ぶ。また、帰宅時は一番外側のアウターを部屋に持ち込まない、ウエットティッシュで服の外側をぬぐうなど、花粉を部屋へ入れないことが大切です。

ポイント2 薬の服用は症状が重症化する前から

花粉情報を参考に、花粉が本格的に飛び始める頃または症状が少しでも現れた時点から薬の服用を始めましょう。症状がひどくなってから薬を服用しても、高い効果が期待できません。薬は本格的な症状が出る前に飲むことで、その症状を抑える働きをすることを覚えておきましょう。

ポイント3 市販のスプレー薬は症状を悪化させることも

市販のスプレータイプの薬を繰り返し使うことは注意が必要です。スプレー薬に血管収縮剤が入っている場合、使い過ぎにより鼻の粘膜が腫れて、かえって鼻づまりの症状がひどくなることがあります。ドラッグストアなどで購入の際は、薬剤師に血管収縮剤が入っているものかどうかを相談しましょう。医師より処方されるスプレータイプの薬は、中身がはっきり分かっていますので安心して使用することができます。

花粉症はほうっておいてもいつかは治る?

花粉症は治療せずに、そのうち治ると考える方もいるかもしれません。しかし残念ながら、過去20年の調査研究によると、20年前に花粉症だった患者さん達が調査時点でも花粉症の症状があることから、治療をせずに治るとは考えにくいという結果が見えてきました。若年層は新たに発症する人口が多いため、20年後の数値は大きくなりますが、50代以降では新たな発症が少ないため、20年後の有病率がほぼ変わらないことがわかります。また、花粉症を持つ人の数はこの20年で、2.5倍にもなり、根本的な花粉症治療の必要性はますます高まっています。花粉症を放置したり、市販薬を繰り返し使う前に、ぜひ耳鼻咽喉科・頭頸部外科の医師に症状を相談し、生活の質(QOL)を保った快適な日常を取り戻しましょう。

年齢層別 スギ花粉症の有病率 
研究結果グラフ
松原 篤ほか:鼻アレルギーの全国疫学調査2019(1998年,2008年との比較):速報─耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として─.日耳鼻 2020;123:485-490.より許可を得て改変

アレルゲン免疫療法・手術 さまざまな選択肢

舌下免疫療法とは?

近年、アレルゲンの入った治療薬を舌の下に投与する「舌下免疫療法」が登場しました。この治療はこれまでの飲み薬のような対症療法ではなく、長期にわたり投与して体質を変えることにより、根本的な改善を目標にした治療法です。1日1回、毎日自宅で服用し3〜5年間にわたり服用を継続します。

舌下免疫療法のメリット

①多くの人に効果がある
②大きな副作用は極めて稀である(またはほとんど無い)
③子供も服用できる
④子供がこの治療法を続けた場合、成長後の他のアレルギー症状を抑える効果も期待できる。また他の薬との併用が可能で薬の量を減らすことができる。
⑤自宅にて治療が可能 (月に1回程度の定期的な通院は推奨されています。)

舌下免疫療法のメリット
デメリット

①治癒をめざすのであれば、治療期間が3年から5年と長期
②スギ花粉・ダニのみ治療対象 その他のアレルギーの治療は現在(2022年2月)、まだございません。
舌下免疫療法は、体質から根本的に治療できるため、80%以上の人に効果があり、薬の副作用が少ないため、とてもお薦めできる治療法です。この治療法をもっと多くの方に知っていただき、治療を始めることにより、症状の軽減、生活の質(QOL)の大幅な改善につなげることができます。一度ぜひ、耳鼻咽喉科・頭頸部外科にご相談ください。

手術はおおまかに3つの選択肢があります。いずれも担当の耳鼻咽喉科・頭頸部外科の医師と相談して、症状と重症度に合わせて決めていきます。

1.鼻粘膜変性手術

鼻の中の粘膜をレーザーなどで処理することによりバリアを作り、花粉が着いても反応を起こさなくする手術です。粘膜が縮まるため、鼻の中の空間が増え鼻詰まりも軽くなります。お近くの耳鼻科クリニックでの施術が可能。体質的に一度手術しても1~2シーズンで元の状態に戻ってしまう場合もあります。

鼻粘膜変性手術
2.鼻腔形態改善手術

鼻の構造を適切なものに変える手術です。鼻炎が悪化して重度の鼻詰まりが続き、従来の治療では回復しない場合に行われます。鼻粘膜のボリュームを減らしたり、鼻の中を広くすることにより、空気の通り道を増やし、鼻詰まりを解消することにつながります。

3.鼻漏改善手術

レーザー治療が効かなかった方も含めて、重度の鼻水に対する新しい手術方法です。下鼻甲介にある副交感神経と知覚神経を部分的に切断し、鼻水そのものを出ないように抑える効果があります。鼻内経由の後鼻神経切断術は、従来の神経切断手術に比べ、涙腺や知覚に与える影響が少なく、最小の損傷で高い効果が期待できます。

「手術でアレルギー性鼻炎が治る」という表現は適切ではありませんが、様々な手術方法の開発によって鼻粘膜をアレルギー反応が起こりにくい粘膜に変える、またはアレルギーが起こっても鼻づまりや鼻水、くしゃみが起こりにくい粘膜に変えることは可能になってきています。適切な治療を始めるには、どのような方にどのような手術が適しているかを判断することが必要になります。レーザー手術だけで十分コントロールできる方もいれば、最初から後鼻神経切断術が必要な方もいます。手術を選択される場合には、専門性の高い医療機関を受診し、それぞれのメリット、デメリットを良く検討してください。

花粉症における抗体療法とは?

科学的に合成した一般的な医薬品とは異なり、生物から産生されるたんぱく質などを応用して作られた生物学的製剤を注射する治療法です。従来の抗ヒスタミン薬は、アレルギー反応が起こってできたアレルギー物質を打ち消すことで症状を抑えますが、この抗体療法では、花粉症などのアレルギー疾患に重要な働きをしているIgE抗体に結合し、ブロックすることで、アレルギー反応を起こさないように、未然に抑制する働きがあります。

抗体療法による最新治療
どんな人が対象?

・スギ花粉症の重症または最重症の方
・季節性アレルギー性鼻炎の既存治療を1週間以上行い、あまり効果がなかった方
・スギ花粉抗原に対する特異的IgE抗体がクラス3以上の方
・血液中の総IgE値が30~1,500IU/mlの範囲の方
・12歳以上の方

メリット

①これまでの治療法が効かなかった患者さんへの治療効果の期待
②効果が約1カ月間ほど続くため、薬の投与の頻度が少ない。

デメリット

①薬の価格が高い
②注射の痛みがある
③治療開始までに数回の診察と検査が必要

スギ花粉症によるくしゃみ・鼻みずがとまらない・鼻づまりがひどいといった症状が飲み薬、点鼻薬などでもおさまらず、1日中花粉症で悩んでいる方、また、内服薬の眠気が強く、効果のある薬に出会えないといった重症のスギ花粉症の方にとって、検討する価値の高い治療法です。ぜひ一度、耳鼻咽喉科・頭頸部外科専門医にご相談ください。

花粉症を軽く見て症状を長引かせないために

若いうちは花粉症が自然に治ることはほとんどありません。症状を放っておくと、症状が悪化して治療しても症状を抑えるのが難しくなっていきます。また、花粉症をはじめとするアレルギー性鼻炎は仕事、家事の効率の低下を招くだけでなく、学力、記憶力の低下が指摘されています。長年、花粉症に悩まされている方は、この機会に、ぜひ耳鼻咽喉科・頭頸部外科にお気軽にご相談ください。ご自身にあった、適切な治療法がきっと見つかるはずです。