口内炎、口の中の違和感、お悩みの方は耳鼻咽喉科へ

口腔がん患者のインタビュー

口腔がん患者のインタビュー

舌がんの体験者

今回、ご自身の舌がんの体験を語っていただいたのは、東京都にお住まいの43歳の男性の方です。舌がんが発覚したきっかけや、どういう病院でどういう治療をされたのか、そして現在の生活まで、経験者だからこそわかる、リアルなお話を伺いました。

――舌がんの診断を受けられたのは、2018年11月だとのことですが、舌に違和感を感じるようになったのは、いつくらいのことですか?

最初におかしいと思ったのは、2018年の10月くらいですね。舌の右側から出血するようになって、鏡で見たら舌に穴が空いていたんです。

――それはびっくりされたでしょう。口内炎とは明らかに違う感じだったのでしょうか?

はい。見た感じも違いましたし、そもそも口内炎って痛みがあるじゃないですか。でも、出血して穴も空いているのに、痛みはなかったんです。だから、それが単なる口内炎ではないことはすぐにわかりました。恐る恐るネットで調べたら舌がんの症状にぴったりはまっていたので、きっとこれはがんなんだろうな、と……。

――それで、すぐに病院に行かれたのですか?

いえ、実は、なかなか行動には移せませんでした。病院に行かなきゃなあとは思ったんですが、なんて言われるんだろう、自分はどうなってしまうのだろうって、正直に言えば怖かったんです。 徐々に喋りにくさも感じるようになっていたのですが、仕事で忙しいことを言い訳にして、だましだましで1ヶ月くらいは放置してしまいました。でも、どんどん酷くなって、ついに大きな血の塊を吐いてしまったんです。もうこれ以上放っておくのは無理だと思って、病院に行くことにしました。



――なるほど。もう、ギリギリの状態だったのですね。最初に受診したのはどんな病院でしたか?

その頃には、がんでほぼ間違いないなと腹を括っていたので、近所の病院を受診しました。

最初に診てくれた先生から生検(組織診)が必要と言われ、痛み止めをして患部を少し切ってもらい、数日後に舌がんという診断を聞きました。もう覚悟はしていたので、ショックというより「ああ、やっぱり」という感じでしたね。かなり進行していたので、その病院では治療が難しいとのことで、大学病院の耳鼻咽喉科・頭頸部外科を紹介され、そこでさらに詳しい検査を受けました。

――その後、耳鼻咽喉科・頭頸部外科の先生からはどのような説明がありましたか?

検査の結果は、ステージⅣの進行した舌がんで、手術で舌の半分以上を切除し、そこに腹筋の一部を移植することや、術後の病理検査の結果次第では、抗がん剤や放射線治療も行うことを、丁寧に説明してもらいました。どれくらい後遺症が残るかは断言できないとのことだったのですが、最悪の場合、味覚が失われるかもしれないと言われ、それが一番不安でした。誰でもそうだと思いますが、僕は食べることが大好きでしたから。ステージⅣと言われたことで、死を意識せずにはいられなかったですが、仮に生きられたとしても、話ができなかったり、食事をしても味がしないとなったら、社会復帰なんてできないのではないかとも思いました。私は運送の仕事をやっていて人としゃべる必要がありますし、前職は調理師だったのですが味覚がなければその仕事も無理ですよね。だから手術前はその不安でいっぱいでした。

――手術前はいろんな葛藤があったのですね。実際の治療はやはり辛かったですか? 

薬でコントロールしていただいたので、切除した場所の激痛を感じるようなことはなかったです。とはいえその分、頭がボーッとしてそれがとても辛かったですね。でも、1週間後に術後初めておかゆを口にしたら、おいしかったんです! 「ああ、味覚大丈夫だ!」って分かって、それがすごく嬉しかったですね。術後の病理組織検査でリンパ節転移が進行した状態であったことが判明し、抗がん剤や放射線治療を併せて行うことになったのですが、味覚が維持された安心感で、そういう治療にも前向きに取り組むことができました。

――抗がん剤や放射線の副作用はありましたか?

抗がん剤の投与後、後頭部の髪の毛がゴッソリ抜けたのには驚きましたが、よく言われる吐き気とか倦怠感などはなかったです。放射線治療のほうも特に問題はなく、このまま何もなく終わるかなと思っていたのですが、最後の最後に喉がただれ、その痛みで1週間食事が取れませんでした。でも、目立った副作用はそれくらいで、想像していたよりは、苦しくありませんでした。

――話したり、食べたりすることに関してリハビリは行いましたか?

手術の10日後くらいから1週間くらい指導してもらいました。1日1時間くらいでしたし、それが辛かった、という記憶はないですね。食事に関して言えば、例えば、トロロ芋や納豆を混ぜるといろんなものが食べやすくなるとか、そういうコツを教えていただいて、それが今、とても役に立っています。

――手術をしたのが2018年の11月で、抗がん剤や放射線の治療を終えたのが2019年の2月とのことですが、現在の体調はいかがですか?

今のところ、再発や転移もなく、経過は順調だと言っていただいています。これまで1ヶ月に1度の経過観察でしたが、これからは2ヶ月に1度で良いそうです。職場の上司や同僚の理解もあり、2019年の6月には仕事にも復帰できました。

――舌を半分以上切除されたとなると、やはり生活の質が低下した部分はあると思いますが、その辺り、率直にお話いただけますか?

もちろん個人差はあると思いますが、私の場合は現時点で、以前の6~7割くらいは維持できていると思います。想像していたより、遥かにいい状態だと言っていいと思います。話すことにしても、以前のように明瞭には話せないですし、電話だと少し苦労することは確かにありますが、だからと言って仕事や日常生活を送る上で大きな支障が出るほどではありません。手術後の状態を知っているリハビリの先生や看護師さんからは、この1年でものすごく回復していると言われました。そう考えると今後、もっと回復できる可能性はあるのかなと思います。

――食事に関してはどうですか?

うっかり熱々のものを食べると熱さを感じられず火傷をしてしまうとか、ハンバーグのような口の中でバラバラになるものは食べにくかったりするのですが、基本的に食べられないものはないんですよ。お酒は嗜む程度ならと先生からは言われていますが、聞こえないふりをして好きに楽しんでいます(笑)。手術直後は、味覚は変わってないと思っていたのですが、日常生活を始めてみると、化学調味料の味が感じられなくなっていることに気づきました。だからカップラーメンなどは全然美味しくないんです。あと、甘みもあまり感じられないので、甘いものもほとんど食べなくなりました。正直嬉しくはないですが、まあ、考えようによっては健康的なのかもしれません。



――治療にあたって、不安や不満を感じたことはありましたか?

舌がんかもしれないと思いつつ、病院に行く勇気が持てなくて、結果的にステージⅣまで放置してしまったのですが、最初に受診した病院と大学病院との連携が素晴らしく、手術までスムーズに進めていただきました。手術後に判明したリンパ節への転移はもちろんショックでしたが、すぐに対応していただけましたし、何より周りの患者さんたちが口々に「ここの先生なら大丈夫!」と言っていたので、安心して治療を受けることができました。だから、不満は一切ありません。診断された時は、最悪の結果も覚悟していたのに、思ったより早く社会復帰もできましたし、良い病院や先生に恵まれて、とてもラッキーだったと思います。

――ご自身で舌がんを疑って、最初から大きめの病院に行かれたのも大きかったのでしょうね。

確かにそれはあるかもしれません。ただ、もっと早く近くの耳鼻咽喉科を受診していればさらに良かったんだろうなとは思います。

――これから、やりたいことはありますか?

仕事も体調も落ち着いてきましたし、趣味のゴルフをそろそろ再開しようかなと考えています。最近は新しい趣味を始めるのもいいなと考えているんですよ。

――それは素晴らしいですね! 今日は本当にありがとうございました。