一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会

委員会からのお知らせ

日耳鼻専門医研修認可施設を対象とする「ST雇用の実態調査2017」の集計結果

日耳鼻渉外委員会
担当理事:髙橋 晴雄
委員長:土井 勝美
委員:三輪 高喜、任  智美、中村 晶彦
ST雇用促進WG:
中川 尚志、宇高 二良、渡嘉敷亮二、西澤 典子、
森  浩一、立石 雅子、谷合 信一、清水 充子、鈴木 恵子

はじめに

 日本耳鼻咽喉科学会は、平成27年度の事業計画の一つとして、言語聴覚士(以下ST:Speech Therapistと略す)の雇用促進を取り上げた。この背景には、耳鼻咽喉科診療、特に耳鼻咽喉科診療所の将来像を考えた際に、従来の耳鼻咽喉科診療に加えて、聴覚障害、平衡障害、咀嚼・嚥下障害、音声・言語障害、そして発達・認知障害に対するリハビリテーションなどのより特化した耳鼻咽喉科医療を提供できるよう、これらの付加医療の提供に従事するST、臨床検査技師、理学・作業療法士を耳鼻咽喉科の診療業務の中に組み入れて行く必要があることがあげられる。しかし現在、耳鼻咽喉科診療所が上記のメディカルスタッフを雇用することには多くの課題が残されているのは明白である。
 当渉外委員会では、平成27年度、調査時点でSTを雇用しているいくつかの診療所を抽出し、同診療所で診療を行っている耳鼻咽喉科医師に、ST雇用の現状・課題について情報の提供をお願いすることにした。また、各地方部会代議員の中で、現在STを雇用していない耳鼻咽喉科診療所の医師にもご協力をお願いして、STの雇用に関する調査時点での認識を調査した。さらに、実際の調査に際しては、現在ST雇用ありの診療所の医師、ST雇用なしの診療所の医師に加えて、それらの診療所に勤務するST自身からも意見を聴取した。回収した調査票の解析結果は、日本耳鼻咽喉科会報ならびに学会ホームページ上で公開した。
 渉外委員会では、平成28・29年度、耳鼻咽喉科診療に携わるST雇用の実態調査を全国規模で実施する目的で、言語聴覚士雇用促進ワーキンググループ(ST雇用促進WG)を委員会内に新設し、平成28年10月に第1回WG会議を開催し。具体的な調査の進め方、調査票の内容等について十分に審議した上で、平成29年7月から3か月間にわたり、日耳鼻専門医研修認可施設631施設を対象とする「ST雇用の実態調査」を実施した。359施設から回答があり、この度、最終的なデータ集計および解析が完了したので、再び日耳鼻会報ならびに学会ホームページ上に公開し、日耳鼻会員および関連諸氏からのパブリックコメントを広く求めることとした。今後の当渉外委員会の活動にご支援を賜るようお願い申し上げる。

対象と方法

 「ST雇用の実態調査」際して調査票をお届けしたのは、日耳鼻専門医研修認可施設631施設である。各施設の耳鼻咽喉科医師がそれぞれの施設内におけるST雇用の実態を調査し、報告書に記載した上で日耳鼻までFAXで回答する方法とした。各施設によりST雇用の実態にはかなりの差があるため、施設によってはより正確な報告内容となるよう、耳鼻咽喉科医師のみならず、リハビリテーション科、中央管理部門、あるいは事務方の責任者の協力を得て、調査票への回答がなされた。実態調査で使用した調査票の内容を示す(図1)。

結果

 調査票を送付した日耳鼻専門医研修認可施設631施設のうち359施設(56.9%)から回答が得られた。質問項目により、重複ありの回答があったり、回答数が異なったり、データが一部不明な回答もあるため、データ数に若干の変動がある点、ご了承いただきたい。

1.ST職務の実態

  1. 回答のあった359施設中、常勤STを雇用している施設は279施設(77.7%)であった。重複している施設が大部分と推察されるが、非常勤STを雇用している施設も73施設(20.3%)あった。一方で、常勤STを雇用してない施設が80施設(22.3%)、非常勤STを雇用してない施設が286施設(79.7%)であった。(表1
  2. 雇用しているST数については、常勤STを雇用している279施設中、常勤ST1人が58施設(20.8%)、2人が76施設(27.2%)、3人が56施設(20.1%)、そして4人以上の雇用は89施設(31.9%)であった。一方で、非常勤STを雇用している69施設では、非常勤ST1人が51施設(73.9%)であった。(表2
  3. STの所属部署については、常勤STを雇用する279施設中、耳鼻咽喉科所属が43施設(15.4%)、リハビリテーション科所属が207施設(74.2%)、中央部門所属が12施設(4.3%)であった。非常勤STの所属部署は、耳鼻咽喉科が38施設(52%)、リハビリテーション科が36施設(49.3%)とほぼ同率であった。(表3
  4. STの職務内容については、延べ人数が1人〜5人、6人〜10人、11人以上の3群に分けて検討した(重複あり)。常勤STの1人〜5人の群では、発声・音声言語障害が208施設(74.6%)、摂食・嚥下障害が240施設(86%)、成人の言語・認知障害が191施設(68.5%)、小児の言語・認知障害が154施設(55.2%)、聴覚障害が135施設(48.4%)、そして平衡障害が35施設(12.5%)であった。常勤STの6人〜10人の群、そして、非常勤STの職務内容についても、ほぼ同様の結果で、摂食・嚥下障害が最も多く、発声・音声言語障害と成人の言語・認知障害が続き、さらに、小児の言語・認知障害、聴覚障害、平衡障害の順であった。常勤STと非常勤STの両者を合わせた全体的な職務内容の比率をまとめると、発声・音声言語障害が10.7%、摂食・嚥下障害が37.2%、成人の言語・認知障害が16.9%、小児の言語・認知障害が7.3%、聴覚障害が14.9%、そして平衡障害が1.3%であった。(表4、5
  5. 常勤STおよび非常勤STが1ヶ月間に担当する平均患者数については、1人〜10人、11人〜20人、21人〜50人、51人〜100人、101人〜200人、201人〜300人、301人以上の7群に分けて検討した(重複あり)。常勤STの1人〜10人の群では、発声・音声言語障害が151施設(54.1%)、摂食・嚥下障害が77施設(27.6%)、成人の言語・認知障害が89施設(31.9%)、小児の言語・認知障害が92施設(33%)、聴覚障害が40施設(14.3%)、そして平衡障害が10施設(3.6%)であった。常勤STの11人〜20人の群、21人〜50人の群では、摂食・嚥下障害が最も多く、成人の言語・認知障害と発声・音声言語障害が続き、さらに、小児の言語・認知障害、聴覚障害、平衡障害の順であった。非常勤STの職務内容についても、ほぼ同様の結果であった。(表6
  6. 常勤STおよび非常勤STの1週間の平均職務時間については、〜60分、61分〜120分、121分〜300分、301分〜600分、601分〜900分、901分〜1200分、1201分〜1500分、1501分〜1800分、1801分〜2100分、2101分〜2400分、2400分以上の11群に分けて検討した(重複あり)。常勤STの〜60分の群では、発声・音声言語障害が62施設(22.2%)、摂食・嚥下障害が18施設(6.5%)、成人の言語・認知障害が32施設(11.5%)、小児の言語・認知障害が42施設(15%)、聴覚障害が22施設(7.9%)、そして平衡障害が8施設(2.9%)であった。常勤STの職務時間が最も多かった121分〜300分の群では、発声・音声言語障害が56施設(20.1%)、摂食・嚥下障害が45施設(16.1%)、成人の言語・認知障害が38施設(13.6%)、小児の言語・認知障害が26施設(9.3%)、聴覚障害が20施設(7.2%)、そして平衡障害が8施設(2.9%)であった。常勤STおよび非常勤STの1週間の職務時間は、いずれの職務内容でも、大部分は1200分(週20時間)以内であった。常勤STについては、30人程度がそれ以上の長時間の職務時間で、36人は2400分(40時間)以上の職務時間であった。

2.STの職務内容により生じる保険請求内容(表7

  1. 常勤STによる発声・音声言語障害の職務がある238施設中、脳血管疾患等リハビリテーション算定が159施設(66.8%)、廃用症候群リハビリテーション算定が30施設(12.6%)、がん患者リハビリテーション算定が28施設(11.8%)、音声機能検査算定が13施設(5.5%)、音響分析算定が6施設(2.5%)であった。
  2. 常勤STによる摂食・嚥下障害の職務がある277施設中、摂食機能療法が147施設(53%)、脳血管疾患等リハビリテーション算定が113施設(40.8%)、廃用症候群リハビリテーション算定が53施設(19.1%)、がん患者リハビリテーション算定が42施設(15.2%)、内視鏡下嚥下機能検査算定が6施設(2.2%)であった。
  3. 常勤STによる成人の言語・認知障害の職務がある225施設中、脳血管疾患等リハビリテーション算定が161施設(71.6%)、廃用症候群リハビリテーション算定が31施設(13.8%)、がん患者リハビリテーション算定が22施設(9.8%)、摂食機能療法算定が9施設(4%)、心理検査算定が7施設(3.1%)であった。
  4. 常勤STによる小児の言語・認知障害の職務がある163施設中、脳血管疾患等リハビリテーション算定が108施設(66.3%)、発達および知能検査算定が9施設(5.5%)、がん患者リハビリテーション算定が8施設(4.9%)、廃用症候群リハビリテーション算定が8施設(4.9%)、心理検査算定が5施設(3%)であった。
  5. 常勤STによる聴覚障害の職務がある150施設中、脳血管疾患等リハビリテーション算定が65施設(43.3%)、補聴器適合検査算定が39施設(26%)、標準純音聴力検査算定が27施設(18%)、他覚的聴力検査算定が22施設(14.7%)、語音聴力検査算定が18施設(12%)であった。
  6. 常勤STによる平衡障害の職務がある35施設中、平衡機能検査算定が9施設(25.7%)、聴力検査算定が6施設(17.1%)、重心動揺検査算定が5施設(14.3%)、脳血管疾患等リハビリテーション算定が4施設(11.4%)であった。

3.ST雇用の実態

  1. ST雇用はどのようにして行われたかについては(回答数306施設、重複あり)、日本ST協会経由は4施設、各都道府県のST士会経由は16施設と少なく、164施設では通常の求人広告でST雇用が行われていた。STからの紹介が52施設、医師・他病院からの紹介が51施設の順であった。インターネットの紹介サイト経由は19施設であった。(表8
  2. STの休職・再雇用についての院内での取り組みについては(回答数288施設)、取り組みありが64施設、なしが218施設、わからないが6施設であった。
  3. ST雇用の促進については(回答数320施設)、雇用を促進したいが214施設、促進を考えてないが46施設、わからないが50施設であった。
  4. どの領域のSTを優先的に雇用したいかについては、希望人数が1人雇用、2人雇用、3人以上雇用の3群に分けて検討した(重複あり)。1人雇用の群では、発声・音声言語障害が95施設、摂食・嚥下障害が138施設、成人の言語・認知障害が33施設、小児の言語・認知障害が58施設、聴覚障害が128施設、そして平衡障害が40施設であった。2人雇用の群でも、発声・音声言語障害が10施設、摂食・嚥下障害が26施設、成人の言語・認知障害が11施設、小児の言語・認知障害が9施設、聴覚障害が22施設、そして平衡障害が3施設であった。(表9
  5. ST雇用のために必要な設備投資や準備については(回答数371施設)、必要が134施設、必要なしが237施設であった。
  6. 常勤STおよび非常勤STの雇用が困難かどうかについては(回答数;常勤ST342施設、非常勤ST318施設)、常勤STについて困難が188施設(55%)、非常勤STについても困難が149施設(46.9%)であった。一方で、どちらとも言えないが、常勤STで131施設(38.3%)、非常勤STで148施設(46.5%)と、大きな比率を占めていた。(表10
  7. ST雇用が困難と考える理由については(回答数366施設、重複あり)、症例が少ないが49施設、リハビリテーションの時間がないが46施設、リハビリテーションは他施設・他科に依頼しているが20施設、補聴器業者の協力を受けているが8施設、設備・投資がないが13施設、収支が合わないが87施設、看護師・臨床検査技師を優先するが7施設、リハビリテーションの施設認定等の事務手続きが煩雑であるが14施設、そしてST雇用を考えてもST不足が112施設であった。(表11
  8. ST雇用により耳鼻咽喉科・病院の収益は増加するかどうかについては(回答数348施設)、収益は増加するが176施設、増加しないが24施設、わからないが148施設であった。また、耳鼻咽喉科診療の質が向上し、収益も増加するとして、ST雇用に関する情報提供については(回答数348施設)、情報提供は必要が258施設、必要なしが6施設、わからないが84施設であった。希望する情報提供の場としては(回答数542施設、重複あり)、日耳鼻総会時のシンポジウム、パネル、講演、説明会等が134施設、関連学会時が134施設、日耳鼻会報や関連学会の学会誌上が152施設、各都道府県の地方部会・医会からが122施設であった。
  9. STの生涯教育・領域認定ST制度への意見については(回答数357施設)、
    意見ありが68施設、なしが291施設であった。

考察

 日耳鼻専門医研修認可施設631施設のうち回答のあった359施設中、常勤STを雇用している施設は279施設(77.7%)であった。重複している施設が大部分と推察されるが、非常勤STを雇用している施設も73施設(20.3%)あった。前回の診療所医師(抽出分)を対象とする調査と比較すると、雇用比率は高率であった。雇用しているST数については、常勤STを雇用している279施設中、常勤ST1人が58施設(20.8%)、2人が76施設(27.2%)、3人が56施設(20.1%)、そして4人以上の雇用は89施設(31.9%)であった。ある程度の人数のSTが施設内に雇用されていることが明らかになった。一方で、STの所属部署については、常勤STを雇用する279施設中、耳鼻咽喉科所属が43施設(15.4%)、リハビリテーション科所属が207施設(74.2%)、中央部門所属が12施設(4.3%)であった。非常勤STの所属部署は、耳鼻咽喉科が38施設(52%)、リハビリテーション科が36施設(49.3%)とほぼ同率であった。耳鼻咽喉科の職務に専任で従事するSTの比率は必ずしも十分ではない可能性が示唆された。STの全体的な職務内容の比率を見ても、発声・音声言語障害が10.7%、摂食・嚥下障害が37.2%、成人の言語・認知障害が16.9%、小児の言語・認知障害が7.3%、聴覚障害が14.9%、そして平衡障害が1.3%であり、院内で雇用されているSTの職務は、耳鼻咽喉科領域のみならず、広い領域で多岐にわたっていることは明らかである。
 職務内容別に見てみると、STの1人〜5人の群では、発声・音声言語障害が208施設(74.6%)、摂食・嚥下障害が240施設(86%)、成人の言語・認知障害が191施設(68.5%)、小児の言語・認知障害が154施設(55.2%)、聴覚障害が135施設(48.4%)、そして平衡障害が35施設(12.5%)であった。聴覚障害を職務とするSTが雇用されている施設もかなり多いことが示された。一方で、STが1ヶ月間に担当する平均患者数については、常勤STの1人〜10人の群では、発声・音声言語障害が151施設(54.1%)、摂食・嚥下障害が77施設(27.6%)、成人の言語・認知障害が89施設(31.9%)、小児の言語・認知障害が92施設(33%)、聴覚障害が40施設(14.3%)、そして平衡障害が10施設(3.6%)であり、また、STの1週間の平均職務時間についても、常勤STの〜60分の群では、発声・音声言語障害が62施設(22.2%)、摂食・嚥下障害が18施設(6.5%)、成人の言語・認知障害が32施設(11.5%)、小児の言語・認知障害が42施設(15%)、聴覚障害が22施設(7.9%)、そして平衡障害が8施設(2.9%)であり、いずれも聴覚障害に関するST職務の内容が、質的にも量的にも必ずしも十分とは言えないことが示唆された。STが担当する聴覚障害の職務内容は、聴覚検査から、補聴器適合に関連する職務、そして聴覚リハビリテーションまで多岐に亘っているが、今回の調査では、その詳細までは確認することはできなかった。今後の調査に委ねたいと考えている。
 STの職務内容により生じる保険請求内容については、職務内容により異なるが、脳血管疾患等リハビリテーション算定、廃用症候群リハビリテーション算定、がん患者リハビリテーション算定、音声機能検査算定、音響分析算定、内視鏡下嚥下機能検査算定、摂食機能療法算定、心理検査算定、発達および知能検査算定、補聴器適合検査算定、標準純音聴力検査算定、他覚的聴力検査算定、語音聴力検査算定、平衡機能検査算定、聴力検査算定、重心動揺検査算定等、多彩であった。ST雇用を促進することで、さまざまな診療報酬の算定が可能であり、結果として、診療科および病院の収益増加は十分に期待できると思われる。
 ST雇用の実態については、前回の診療所医師(抽出分)を対象とする調査とかなり近似する結果が得られた。ST雇用の方法では、日本ST協会経由は4施設、各都道府県のST士会経由は16施設と少なく、164施設では通常の求人広告でST雇用が行われていた。STからの紹介が52施設、医師・他病院からの紹介が51施設の順であった。インターネットの紹介サイト経由は19施設であった。将来的には、通常の求人広告を経由するST雇用ではなく、日耳鼻と言語聴覚士協会との連携強化を推進し、言語聴覚士協会や医師・病院からの働きかけをさらに高めることで、耳鼻咽喉科診療所におけるST雇用をさらに促進していくことが重要であると思われる。STの雇用が困難かどうかについては、常勤STの雇用は困難が188施設(55%)、非常勤STの雇用は困難が149施設(46.9%)であった。一方で、どちらとも言えないが、常勤ST雇用については131施設(38.3%)、非常勤STについても148施設(46.5%)と、大きな比率を占めていた。ST雇用についての適切な情報共有がないまま、ST雇用について十分な検討がなされていない現状が浮き彫りになった。ST雇用が困難と考える理由については(症例が少ないが49施設、リハビリテーションの時間がないが46施設、リハビリテーションは他施設・他科に依頼しているが20施設、補聴器業者の協力を受けているが8施設、設備・投資がないが13施設、収支が合わないが87施設、看護師・臨床検査技師を優先するが7施設、リハビリテーションの施設認定等の事務手続きが煩雑であるが14施設、そしてST雇用を考えているものの、112施設がST不足と回答した。耳鼻咽喉科診療に携わるべきSTの不足が、ST雇用の大きな障壁になっている実態が明らかとなり、日耳鼻として、チーム医療として耳鼻咽喉科診療に参画するSTを育成することが急務であると考えられた。ST雇用により耳鼻咽喉科・病院の収益は増加するかどうかについては、収益は増加すると考えている施設が176施設と圧倒的に多く、増加しないと考える施設は24施設に留まった。一方で、わからないが148施設あり、やはり、ST雇用についての適切な情報共有がないまま、ST雇用について十分な検討が進んでいない現状が浮き彫りになった。ST雇用に関する情報提供の場として何を希望するかについては、日耳鼻総会時のシンポジウム、パネル、講演、説明会等が134施設、関連学会時が134施設、日耳鼻会報や関連学会の学会誌上が152施設、各都道府県の地方部会・医会からが122施設であった。さまざまな機会をとらえて、日耳鼻が主導的に、ST雇用に関する適切な情報提供が考慮すべきであることが示唆された。

まとめ

 今回のアンケート調査の結果を受けて、当渉外委員会から以下の提言を行いたい。

  1. 日耳鼻としては、ST雇用の促進のためには、常勤および非常勤STの雇用によりいかに診療所の収益が増加するか、ST雇用による職務内容の拡大により診療所の医療の質がいかに向上するか、ST雇用による咀嚼・嚥下障害や発達・認知障害への参画により診療所—地域医療間の連携がいかに深まるか、診療所の地域医療への貢献がいかに高まるかを、さまざまな教育・啓蒙の機会を通して学会会員に周知させていくことが重要である。
  2. 地域医療との連携を深め、超高齢化社会における音声・言語障害、咀嚼・嚥下障害、発達・認知障害、聴覚障害、そして平衡障害・めまいなどに対するさまざまなリハビリテーション医学、予防医学にも診療所医師の積極的な参入を図ることで社会全体に大きな還元を行うことを企図して、未来型の耳鼻咽喉科診療所のモデル化事業をさらに推進していくことが学会の使命である。
  3. STが担当する検査やリハビリテーションに関する診療報酬の改定、またリハビリテーション料の算定に際しての施設基準の緩和などにも、言語聴覚士協会と連携して、日耳鼻がより積極的な介入を行うことで、診療所におけるST雇用をより円滑に進めることが可能になる。
  4. 認定ST制度などを利用したST生涯教育の確立を、言語聴覚士協会との連携の中で推進していくことも重要で、STの卒前・卒後教育への日耳鼻の積極的な介入が求められる。
  5. 平成27年度に、ST雇用ありの診療所、ST雇用なしの診療所を一部抽出して、ST雇用に関するアンケート調査を実施し、その解析結果を日本耳鼻咽喉科会報ならびに学会ホームページ上で公開した。平成28年度に、言語聴覚士雇用促進ワーキンググループ(ST雇用促進WG)を委員会内に新設し、日耳鼻専門医研修認可施設を対象とする「ST雇用の実態調査」を実施した。渉外委員会の次期事業計画として、全国の耳鼻咽喉科診療所を対象とするマークシート調査票を用いた「ST雇用の実態調査」の実施を計画している。

謝辞

 ご多忙の中、本アンケート調査にご協力とご支援をいただきました先生方に深謝致します。また、本報告書の作成に際して、きめ細やかなご指導を頂戴しました廣瀬 肇先生(日耳鼻渉外委員会元相談役)にも、厚く御礼を申し上げます。

PDFファイル 図1 アンケート調査票の内容

表1

表2

表3

表4

表5

表6

表7

表8

表9

表10

表11

「診療所における言語聴覚士雇用に関するアンケート調査」の集計結果

2018年11月26日掲載