意外と知らない身近な耳鼻咽喉科・頭頸部外科

鼻出血(鼻血)
~ 原因・止め方・こんな鼻血は要注意! ~

鼻出血(鼻血)は誰にでも起こりうる身近な症状です。多くの場合、正しく対処すれば短時間で治まりますが、なかなか鼻血が止まらなかったり、繰り返し出血したりする場合は、病気が隠れている可能性もあります。鼻血の原因と仕組みや応急処置のポイント、危険な鼻血の見分け方を解説します。

鼻血の原因と仕組み

鼻の粘膜には血管が豊富にあり、どの血管が傷ついて出血しても不思議ではありません。なかでも鼻の穴を左右に分けている壁(鼻中隔=びちゅうかく)の入り口付近にある「キーゼルバッハ部位」には血管が集中しています。外からの刺激を受けやすい部分でもあり、キーゼルバッハ部位からの出血が鼻血の7~8割を占めています。

鼻血の原因と仕組み

鼻をぶつけたなどの外傷や、アレルギー性鼻炎や副鼻腔(ふくびくう)炎などの炎症は鼻血の原因になります。また鼻腔や副鼻腔にできた腫瘍(できもの)からの鼻血もあります。原因はさまざまあり、他にも以下のようなことが挙げられます。

高血圧血圧が高い状態は鼻血に限らず、出血しやすい要因と考えられています。出血した場合に勢いが強いため、止まりにくくなることがあります。
糖尿病血糖値の高い状態が続くと血管がもろくなります。また、循環器疾患などを合併していることも多いため、鼻血が出やすい状態と考えられます。
肝臓や血液の病気肝臓では血液を固める作用のある「凝固因子」が作られますが、肝硬変などの場合はそれがうまく作れなくなるため、鼻血が止まりにくくなります。また、凝固因子が生まれつき欠損している血友病や、血小板が少なくなる白血病などでも同様のことが起こります。
薬の影響心筋梗塞(こうそく)などの治療のため、血液をさらさらにして血栓を予防する薬を飲んでいる場合、鼻血が止まりにくくなります。
オスラー病別名「遺伝性出血性毛細血管拡張症」とも呼ばれる難病です。全身の血管に異常が起こり、肺や脳、肝臓などあらゆるところから出血する可能性がありますが、最も多い症状が繰り返す鼻血です。

キーゼルバッハ部位以外からの出血もあります。鼻腔の後方にある蝶口蓋(ちょうこうがい)動脈から出血した場合は、大出血につながります。また、副鼻腔の一つ、蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)に隣接する大動脈である内頸動脈から出血すると致命的な状態になります。

応急処置のポイント

鼻血が出るとびっくりしてしまいますが、まずは落ち着くことが大切です。そのうえで椅子などに座り、小鼻の軟らかいところを指でつまんで床や地面を見るようにし、その体勢のまま5~10分ほど安静にします。多くの鼻血はこれで止まります。
このとき決して上を向いてはいけません。上を向くと、のどの方に血が流れて止まりにくくなります。また、のどに流れた血が固まり、血栓となって窒息したり、飲み込んでしまうと気持ちが悪くなって嘔吐(おうと)したりします。
もし座った状態ではつらいという場合は、頭をやや高くし、横を向いて寝た姿勢になりましょう。のどの方に流れてくる血は口から吐き出します。この場合も決して仰向けにならないことが大切です。
また、ティッシュペーパーや脱脂綿を鼻の穴に詰めることは、あまり推奨されません。粘膜を傷つけてしまったり、鼻の奥に入ってしまい取り出せなくなったりする恐れがあるからです。基本的には何も入れず、外側に出てきた血をティッシュペーパーやタオルで拭き取るのがいいでしょう。

応急処置のポイント
※のどの方に流れてきた血は口から吐き出してください。

鼻血が出やすい季節や時間ってあるの?

鼻血が出やすい季節や時間帯には、以下の特徴があります。

鼻血は冬に出やすい

冬になると鼻血の症状が起こりやすくなります。空気が冷たく乾燥しているため、粘膜の表面にある粘液も乾き、傷つきやすくなるからです。また冬は、外は寒くて室内はあたたかいというように、温度差があります。短時間に起きる急激な温度変化によって自律神経の機能が乱れ、血管の収縮・拡張の周期にずれが生じ、血管がもろくなりやすくなると考えられます。
さらに、冬は鼻水が出やすくなります。これは、冷気に弱い肺を守るために、鼻呼吸をする際に体にとって心地のよい温水を出すことによって、肺に冷たく乾燥した空気を送り込まないようにしているからです。鼻水が出ることは、自分の体を守る重要な働きですが、その結果、鼻に触れたり、鼻をかんだりする機会も多くなるため、出血しやすくなるのです。

鼻血は冬に出やすい

夜間に多い

朝起きたら布団に鼻血がついていた、という経験をしたことのある人もいるのではないでしょうか。鼻血は昼間より夜間に出やすい傾向があります。眠っている時やリラックスしている時は自律神経の副交感神経が優位になり、それによって血管が拡張しやすくなることが一因と考えられます。
また、アレルギー性鼻炎、特にダニに対するアレルギーのある人では、布団に潜むダニによってかゆみが生じ、就寝中に鼻を触ったり、こすったりして鼻血が出ている可能性があります。鼻炎をしっかりと治療することで、鼻血の予防にもつながります。

鼻血は夜間に多い
応急処置のポイント

こんな鼻血には注意が必要
(危険な鼻血の見分け方)

血が出た場合、先述した応急処置で多くの鼻血は止まりますが、以下のような場合は命に関わることもある「危険な鼻血」です。ただちに医療機関を受診しましょう。

  • 睡眠不足
    バケツ1杯分ほどの
    出血量がある

    明らかに出血量が多い場合は、動脈から出血している可能性があり、医療機関における早急な処置が必要です。

  • 睡眠不足
    発熱している

    鼻血に加えて発熱している場合は非常に活発な血液疾患の可能性があり、一気に全身状態が悪くなることがあります。

  • 睡眠不足
    出血の勢いが強く、
    のどの方に流れてくる

    下を向いて小鼻を押さえていても、鼻から血があふれてのどの方に流れ、口から吐き出さなければならないような出方の鼻血は危険です。のどの方に血が流れてくるかどうかは、危険な鼻血を見分ける一つの指標になります。

他に、「20分たっても止まらない」、「1週間に3回ほど鼻血が出る」などの場合も耳鼻咽喉科を受診しましょう。「ワーファリン」など血液をさらさらにする薬を飲んでいる人は血が止まりにくいため、より注意が必要です。

監修:兵庫医科大学 医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室 主任教授 都築 建三先生