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唾液を分泌する耳下腺に生じるまれながん
「耳下腺がん」とは?

耳下腺がんに苦しむ女性
耳下腺がんのイラスト

耳の前(耳前部)から下(耳下部)にかけて「耳下腺」という臓器があります。これは唾液を産生、分泌する臓器で、普通は耳下腺部を手で触れても存在を感じ取ることはできません。耳下腺の中には、顔の筋肉を動かして表情を作る顔面神経が通っています。

耳下腺がんのイラスト

耳下腺がんとは

この耳下腺に生じる腫瘍(できもの)を耳下腺腫瘍といい、その中でも悪性のものを耳下腺がんと言います。がんの中では「希少がん」にも分類されるかなりまれな疾患で、国内で1年間に行われる良性の耳下腺腫瘍の手術が約6000件、良性腫瘍と悪性のがんの比率は約10対1と言われています。1年間に新たに耳下腺がんと診断される人は、人口10万人あたり0.6人というデータもあります(*1)。

*1:「全国がん登録・全国がん罹患データ(2016年~2018年)」より「耳下腺・全国合計年齢調整罹患率2018年」を引用~
がん情報サービス・がん統計・集計表ダウンロードページの「2. 罹患 1)全国がん登録」の項を参照

耳下腺がんの症状

良性腫瘍の場合、触れるとしこりのような腫瘤がある以外に痛みなどの症状がないことがほとんどです。一方、悪性(がん)の場合は痛みが出ることが多く、さらにがんが周囲の組織に癒着して腫瘤の動きが悪くなる、顔面神経麻痺を起こすなどの症状が出ることがあります。顔面神経麻痺は顔の左右片方がうまく動かなくなり、目がきちんと閉じられない、口元から水がこぼれる、などの症状が現れます。顔面神経麻痺の多くは耳下腺がん以外の原因によるものですが、耳の前、下辺りのしこりや痛みを伴う場合は注意が必要です。良性の耳下腺腫瘍965例で顔面神経麻痺を併発した例はなかったのに対し、悪性の耳下腺がん200例のうち18%が顔面神経麻痺を起こしていました(*2)。また痛み、癒着、顔面神経麻痺の各症状とも、耳下腺がんの悪性度が高くなると、その発生頻度が高くなるというデータもあります。

2*:Inaka Y, Kawata R, et al. Int J Clin Oncol. 2021; 26: 1170-1178.

耳下腺がんの診断

耳の前、あるいは下に腫瘤がある患者さんには、まずその腫瘤ができた経緯を聴き取りつつ、視診と触診を行います。この段階で良性、悪性の鑑別が可能な場合もあります。続いて超音波エコーを実施しつつがんが疑われる部位の細胞を採取する「穿刺吸引細胞診」を行います。これによって、病理組織型という「がんのタイプ」を見極め、悪性度を知ることが可能ですが、完全には判別できないこともあります。またがんの大きさ、進展度を知るためにはMRI検査も有用です。

耳下腺がんの治療

診断の項で説明した「穿刺吸引細胞診」によって、耳下腺がんのタイプ=病気組織型を探りますが、耳下腺がんは非常に多くの細かいタイプに分けられており、現在のWHOの分類では23種類にも及びます。それぞれのタイプに悪性度の低いタイプ、高いタイプが存在し、それを慎重に見極めて治療方針を決定することになります。
 治療の第一選択は手術です。診断時に見極めた悪性度と進展度(がんの大きさ)にもとづき、がんの切除範囲を決めます。ここで重要なのが、耳下腺の中を通る顔面神経の処理法(温存か切除か)です。手術に追加する治療としては、進行がんや悪性度が強いがんの場合に術後放射線治療を行うことがあります。化学療法(抗がん剤治療)は、耳下腺がんに関しては今のところ有用でない場合が多いとされていま

耳下腺がんの治療成績

大阪医科薬科大学における成績では、もっとも進展が激しいステージIVでの5年生存率が52.1%でした。また悪性度の高いタイプの耳下腺がんでは52.3%であり、「進行したがん」「悪性度が高いがん」は治療成績が悪い、ということがわかります。

早期発見、早期治療のために

耳下腺がんも他の多くのがんと同様、早期発見、早期治療が非常に重要です。耳の前、耳の下を触れて、しこりのような腫瘤を感じ取れた場合は耳下腺腫瘍が疑われます。そのうえで痛みを伴ったり、腫瘤が次第に大きくなったり、顔の麻痺症状が出てきた場合は注意が必要です。早期に近くの耳鼻咽喉科頭頸部外科の医療機関を受診してください。

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