「人生100年時代」を生き抜くために

かすれ声を放置すると命にかかわる!?

声を出すには喉頭の筋力が必要

人間の体において、発声を担う器官は喉頭です。軟骨で囲まれた喉頭は、呼吸をする際に空気が出入りする管のようなもので、その管の下方は肺につながっています。喉頭の内側には、筋肉と粘膜でできた声帯が左右にあり、声を出す際は、左右の声帯が動いて、管の真ん中で接触します。これを声門閉鎖と言います。その間(声門)を呼気がすり抜けていく際に声帯の粘膜が振動し、音が出ます。さらにその音が喉や口の空洞で響くことで、音が大きくなったり、発音が変化したりします。これが声の出る仕組みです。

発声の仕組み

ところが、加齢により、声帯を動かす喉頭の筋力が弱くなったり、声帯の柔軟性が失われると、声門閉鎖や声帯の振動に支障が出ます。そのせいで、声がかれたり、声がうまく出せなくなったりするのです。さらに肺機能の低下によって、声門をすり抜ける呼気量そのものが減少しているケースもあります。

加齢性音声障害は訓練で改善できる

周りの人とコミュニケーションを図る上で、言葉を交わし合う会話は重要な役割を果たします。発声に不安があるせいで、他人との関わりを避けるようになってしまうと、QOL(Quality of life:生活の質)が大きく低下することは避けられません。孤立することで、社会参加が絶たれ、認知症のリスクを高める危険性もあります。歳だからと諦めず、治療に前向きに取り組めば、その改善も十分に可能です。
加齢性音声障害は、喉頭の筋力低下や呼気量の減少が原因になっているので、喉頭の筋力や肺機能を鍛える訓練が有効です。長く発声したり、高い声や低い声を出したりする訓練を組み合わせて、総合的な発声機能を高める「vocal function exercise(発声機能拡張訓練)」は、その有効性も確認されています。

加齢性音声障害にも効果のある
vocal function exercise(発声機能拡張訓練)

音声障害と嚥下障害は同時に起こる!?

加齢による音声障害自体は命に関わることはありません。しかし、だからといってそれを放置するのは非常に危険です。
喉頭は、口から入った飲食物が咽頭を通過する際、気管の入り口を閉じて誤嚥を防ぐ働きも担っています。また、万が一誤嚥した場合でも、むせこんで気管の外に出すような仕組みがあります。つまり、加齢性音声障害の原因である喉頭の筋力低下は同時に誤嚥の原因にもなり、肺機能の低下も重なって、高齢者の命を奪いかねない嚥下性肺炎(誤嚥性肺炎)のリスクも高めてしまうのです。
このように加齢性の音声障害と嚥下性肺炎(誤嚥性肺炎)とは切っても切れない関係があります。音声障害の予防や治療は、嚥下性肺炎(誤嚥性肺炎)の予防のためにも非常に大事なのです。
他の筋肉と同様、喉頭の筋肉も使うことで鍛えられます。つまり、たくさん声を出して会話を楽しむことが、喉頭の筋力を維持するためには必要なのです。また、歌を歌うことが声帯のストレッチとして有効だという研究結果もあります。
音声障害は治療や訓練により、改善できる可能性があります。一方で、声のかすれ、声が出しにくい、などの症状の裏に、喉頭がんなど、深刻な病気が隠れていることもあります。気になる症状がある場合には、早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。