Open Menu

もっと役立つ 頭頸部がん最新情報

手術痕が目立たない
甲状腺腫瘍に対する内視鏡手術

内視鏡手術を受ける女性
甲状腺のイラスト

甲状腺は、のど仏の下にある臓器です。代謝を調節する甲状腺ホルモンを分泌し、体温や自律神経を調整するという大切な役割を担っています。
 その甲状腺の疾患に対して従来行われていた手術は、頸部(首)の正面側にメスを入れるケースが多くを占めていました。そのため、比較的目に付きやすい場所に手術痕が残ることが、患者さんのQOL(生活の質)を下げる要素になっていた面があります。 しかし近年、内視鏡手術の進歩により、頸部以外の普段は見えにくい箇所に小さな傷しか残さずに治療することが可能になってきています。

甲状腺のイラスト

手術が必要な場合がある甲状腺の主な病気について

手術が必要な場合がある甲状腺の病気としては、良性腫瘍、悪性腫瘍(がん)や甲状腺ホルモンを過剰に分泌するバセドウ病で薬剤による治療でコントロールが難しいケースなどが挙げられます。

 甲状腺がんは、がんの中では比較的患者数が少なく、男性よりも女性に多い疾患です。2018年の国内における罹患数は、男性が4790人、女性が13846人と、女性の患者数は男性の3倍近くになっています(*1)。バセドウ病の患者は人口1000人当たり0.2~3.2人で、20~30代の女性に多いと報告されています。男女比は1:3~5人と報告されています(*2)。
*1:「全国がん登録・全国がん罹患データ(2016年~2018年)」より「甲状腺・全国合計罹患数2018年」を引用~がん情報サービス・がん統計・集計表ダウンロードページの「2. 罹患 1)全国がん登録」の項を参照
*2: 「一般社団法人 日本内分泌学会」ウェブサイト「バセドウ病」より引用

甲状腺腫瘍に対する内視鏡手術の概要

甲状腺腫瘍の内視鏡手術は1997年に世界で初めて行われ、98年には国内でも第1例が実施されました。ただ保険適用となったのは比較的最近で、良性腫瘍やバセドウ病に対して2016年、悪性腫瘍に対して18年のことです。そのため、内視鏡手術ができる施設はまだまだ少なく、各県1施設程度しかありません。

 内視鏡手術は患者さんのわきの下や乳房、うなじ部分や口の中など様々な場所から挿入して行う方法がありますが、国内で最もよく行われているのは、鎖骨の下あたりからアプローチする方法です。この場合、術後、傷痕は服に隠れることになり、普段の生活で目立つことはありません。従来から行われている首の正面を切開する手術(外切開手術)だと傷痕が目立ちやすいで、この点は大きなメリットとなります。

 手術時間は片葉切除(甲状腺の半分を切除する方法)で2.5~3時間程度で、外切開手術の1.5~2時間より時間がかかります。術後の入院期間は5~6日。外切開手術は6~7日なので、1日ほど短縮されます。総合的な手術の安全度は、両方の手術法とも同程度であることが報告されています(*3)。
*3:五十嵐 健人, 清水 一雄, 岡村 律子, 赤須 東樹, 長岡 竜太, 眞田 麻理恵, 杉谷 巌, 内視鏡下甲状腺手術ワーキンググループの成績と今後の課題, 日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌, 2016, 33 巻, 4 号, p. 200-204

腫瘍の進行度と手術適応について

どの程度進行した甲状腺腫瘍まで内視鏡手術の対象とするかは、医療機関によって基準に多少の差があるので確認が必要です。

 金沢医科大学の北村守正教授(頭頸部外科学)によると、同大学では良性腫瘍の場合、6センチ以下であることを内視鏡手術適応の基準としています。それ以上大きくなると、内視鏡で写し出す視野が十分広く取れなくなって手術時間が長引くうえ、合併症の可能性も高まるといいます。一方、悪性腫瘍(がん)の場合は、腫瘍が4センチ以下で画像上、周囲の組織を巻き込んでいない状態で、かつリンパ節に「転移がない」「転移があったとしても気管周辺で止まっていること」を条件(がんの進行の程度=病期を示す「TNM分類」でT2以下、かつN0またはN1aといいます)としています。バセドウ病の場合は、推定質量60グラム程度までとなっています。

関連動画