ごあいさつ

一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
理事長 中川 尚志
令和8年5月に仙台で開催されました日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会総会・学術講演会における理事会にて、第20代理事長に選出されました。大変光栄であるとともに、その重責に身の引き締まる思いです。耳鼻咽喉科頭頸部外科学のさらなる発展に貢献できるよう、全力で努めてまいります。
本学会は1893年に設立され、133年の歴史を有します。耳鼻咽喉科頭頸部外科学の学術分野のみならず、医療・福祉・教育にも深く関わり、専門知識を社会へ還元する重要な役割を担っています。また、関連する学会が15存在することは、本分野の診療範囲が広く多岐にわたることを示しています。日本臨床耳鼻咽喉科医会とともに、耳鼻咽喉科頭頸部外科分野の充実、そして医療・福祉・教育への貢献を果たしてまいります。
耳鼻咽喉科頭頸部外科は、この20年で大きく変革してきました。臨床においては、鼻科・耳科・頭頸部外科領域での低侵襲内視鏡手術の発展、人工聴覚器の導入、頭頸部がんに対するロボット手術、光免疫療法、免疫チェックポイント阻害薬など新規医療による治療、チーム医療の発達と連携強化による治療範囲の拡大と安全性の確保、QOLの維持など、現在も進化が続いています。
基礎研究から始まった遺伝性難聴の研究は、難聴治療の個別化や患者さんとの意思決定の共有へと進展しています。一方で、国際機能分類(ICF)の概念に基づく共生社会の実現にも目を向けています。2025年秋に東京で開催されたろう者のオリンピック「デフリンピック」では、聞こえの専門家である耳鼻咽喉科頭頸部外科医として、日耳鼻および臨床耳鼻科医会が支援を行いました。
また、免疫学的研究の成果により、難治性好酸球性鼻副鼻腔炎をはじめとする新たな疾患概念が鼻科・耳科領域で確立されました。それに伴い、基礎的知見に基づく治療もすでに始まっています。平衡障害では、持続性遅発性姿勢誘発めまいや加齢性前庭障害など、従来「めまい症」と診断され治療方法がなかった方々へのアプローチが可能となっています。正常聴力にもかかわらず聞こえにくさを訴える聞き取り困難症、診断が難しかった痙攣性発声障害への薬物・外科的治療も始まっています。また、近年注目されている睡眠障害も重要な領域のひとつです。
日本は世界一の超高齢社会を迎え、健康寿命の延伸や生活の質の維持に国を挙げて取り組んでいます。耳鼻咽喉科頭頸部外科は、聴覚・嗅覚・味覚・平衡覚など幅広い感覚器領域を専門としています。学会としても加齢性疾患への対応を重視し、積極的に取り組んでいます。特に加齢性難聴については、2024年より2年間、ACジャパンを通じてテレビCMによる早期介入啓発活動を行いました。2026年度は、若者の将来の聴覚に影響するヘッドフォン・イヤフォン難聴を取り上げています。
残念ながら、これまで聞こえの重要性は社会・行政レベルで十分に認識されてきませんでした。しかし、難聴対策議連が発足し、ジャパンヒアリングビジョンが発出されました。日耳鼻および臨床耳鼻科医会もアカデミアの立場として歩調を合わせ、協働し、同じ目標に向かって進んでいます。生涯を通じた聴覚管理、適正な補聴器医療の提供、国および自治体の聴覚障害に対する制度改善など、課題はまだ山積しています。
加齢とともに嚥下機能は低下します。しかし、嚥下機能低下に対して適切な時期に十分な介入が行われていない現状があります。嚥下の専門家である耳鼻咽喉科頭頸部外科医が、嚥下障害に対する社会的役割を十分に果たせていない側面もあります。専門知識をもって早期介入に取り組む体制を社会に構築し、適切な対応・治療を提供することは、国民の生活の質の向上につながります。日耳鼻および臨床耳鼻科医会とともに、活動をさらに加速してまいります。
少子化に伴う人口減少は、人口偏在による都市部への集中や過疎化を生み出し、これまでとは異なるレベルの地域格差など社会の大きな変化をもたらしています。ビッグデータ解析による将来予測を活用し、適切な時期に適切な耳鼻咽喉科頭頸部外科医療を届ける体制の確立を目指します。同時に、遠隔医療やオンライン診療、モバイル医療を活用し、どこにいても確実に耳鼻咽喉科頭頸部外科医療を受けられる環境を整備することが急務です。耳鼻咽喉科頭頸部外科医の社会的価値を高め、さまざまな領域で不可欠であり、頼られる存在となることを目標とします。
会員の皆様が耳鼻咽喉科頭頸部外科医療の明るい未来を描けるよう、全力で取り組んでまいります。より一層のご支援、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。
2026年8月18日掲載
