一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会

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耳鼻咽喉科・頭頸部外科が扱う代表的な病気

口腔・咽頭の病気

口内炎

 口内炎とは口の中の粘膜に生じる炎症の総称で、できる部位によっては舌炎、歯肉炎、口唇炎などと呼ばれることがあります。種類としてはアフタ性口内炎、ウイルス性口内炎、カンジダ性口内炎、アレルギー性口内炎などがあります。
 もっともよく見られるのは、アフタ性口内炎で痛みを伴う数ミリの灰白色斑(アフタ)が見られます。歯で噛んだり、歯ブラシで傷つけたり、やけどなどの傷に雑菌が入り込んで起こりますが、ビタミン不足、ストレスなどによる免疫力の低下も関係するといわれています。うがいなどで口内を清潔に保ち、1週間から2週間程度で自然に改善することが多いですが、改善を早めるためにステロイド軟こうを塗ることもあります。
 ウイルス性口内炎ではヘルペス、手足口病、はしかなどのウイルスが原因となることがあり、カンジダ性口内炎では、カンジダというカビの一種が原因となり、糖尿病の方や喘息治療に用いる吸入ステロイド剤を使用している方に発症しやすくなります。アレルギー性口内炎は薬物や歯科治療で用いられる金属によっておこります。そのほか、性病の一症状としてあらわれる口内炎などもあります。
 治りにくい口内炎と思っているケースの中には初期のがんのこともあります。また、一度に何か所もできる、何度もできるという場合は、自己免疫疾患(ベーチェット病、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデスなど)をはじめとする全身疾患の一症状として出てくる口内炎の場合もあるため、ぜひ耳鼻咽喉科を受診してください。

口内炎

咽頭炎

 咽頭に炎症を起こしたものの総称が「咽頭炎」で、急性咽頭炎と慢性咽頭炎があります。
 急性咽頭炎はウイルスや細菌などの微生物の感染による急性炎症で発熱やのどの痛みを伴うことが多いです。うがいをしたり、必要に応じ抗菌薬などを内服して治療します。症状が強く、食事を摂ることもできない場合には入院を要することもあります。
 慢性咽頭炎はのどの痛み、違和感や飲み込みにくさなどが生じることがあります。様々なことが原因として起こり、ウイルスや細菌などへの感染のほか、胃酸の逆流、自己免疫疾患や性病などでも生じることがあります。
 長期に続くのどの症状の場合には悪性腫瘍のこともあります。また、神経痛や狭心症・心筋梗塞の関連痛、精神的なストレスでも似た症状となることがあるため、気になる際には耳鼻咽喉科でご相談ください。

咽頭炎

急性扁桃炎

 のどの奥の左右両側にある扁桃が、ウイルスや細菌などの感染により炎症を起こしたものが「扁桃炎」です。扁桃は赤く腫れ、しばしば白い膿を持ちます。のどの強い痛み、つばを飲み込むときの強い痛みがあり、高熱を出すこともあります。扁桃の膿を取ったり、うがい、抗菌薬の内服などで治療します。食事がとれないときは点滴をしたり、入院が必要になることがあります。咽頭痛が強い場合に全てが急性扁桃炎とは限りません。後述する扁桃周囲膿瘍などのより重症な病気や、一部の抗菌薬を使用すると皮疹などの副作用を生じるウイルスが原因の伝染性単核球症といった病気もあります。我慢せず耳鼻咽喉科でご相談ください。

扁桃炎

扁桃周囲膿瘍

 扁桃炎をこじらせ、扁桃のまわりに膿がたまる状態が「扁桃周囲膿瘍(のうよう)」です。
 のどの強い痛み、つばを飲み込むときの強い痛みがあります。痛みが強くて食事が食べられないことや、口が開きにくくなることがあり、耳も痛く感じることがあります。扁桃だけでなく、扁桃のまわりも赤く大きく腫れます(矢印)。腫れているところを切開して膿を出し、抗菌薬の点滴、内服をします。しばしば入院が必要となります。膿がたまる場所によっては、一見すると口の中を見ただけではわかりづらい場合があります。再発しやすく、再発を繰り返す場合には扁桃を手術で取る必要があります。のどの強い痛みがある際、ぜひ耳鼻咽喉科にご相談ください。

扁桃周囲膿瘍

唾石症

 唾石症(だせきしょう)は唾液腺または唾液腺から口腔内に唾液を分泌する排泄管の中に石ができる病態で、顎下腺唾石症が最も有名ですが、耳下腺や舌下腺にも発生します。石によって唾液の分泌が障害されると唾液腺が腫脹し痛みが出ます。とくに食事のときは唾液が多く出るため、ものを食べると腫脹、疼痛が強くなるのが特徴です。また感染を合併すると腫脹、疼痛の増悪に加え、口腔内に膿が出ることがあります。石が口腔内へ排出されて自然治癒することもありますが、そうでない場合は手術によって石を摘出します。手術は口腔内から排泄管を切開する方法や、頸部から皮膚を切開して唾液腺ごと摘出する方法、皮膚や粘膜を切開せずに内視鏡を排泄管に挿入して石を摘出する方法があります。石の大きさや位置によって、適切な手術の方法が決まります。

唾液腺炎

  唾液腺の種類は大唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)と小唾液腺(口腔内などに多数存在)の二つにわかれます。唾液腺は唾液を作り口腔内に排出するので、何らかの異常が唾液腺あるいは唾液腺から口腔内に唾液を分泌する排泄管に起きると、唾液の分泌が不良となり口腔内の乾燥に繋がります。また、唾液腺内で化膿性炎症が起きると、膿が排泄管を通って、口腔内に排出されることがあります。大唾液腺には急性、慢性の炎症が起きますが、そのうち、ウイルス感染が原因で耳の下が腫れるいわゆる“おたふくかぜ”は、流行性耳下腺炎が正式の病名です。この他、急性化膿性耳下腺炎、急性顎下腺炎、慢性唾液腺炎など何らかの感染を伴う唾液腺炎と、シェーグレン症候群、IgG4関連唾液腺炎などの感染を伴わない自己免疫に関連した唾液腺炎が存在します。後者は目や膵臓など他の臓器に疾患を伴う場合もあるため、疑わしい場合は複数の診療科において詳しい検査が必要となります。

睡眠時無呼吸

 睡眠中に呼吸が止まることを睡眠時無呼吸と呼びます。これを一晩のうちに何度も繰り返す睡眠時無呼吸症候群は、成人では日中の強い眠気や集中力低下に加え、時に高血圧や心不全といった心血管系の疾患を引き起こすとされています。診断には専用の機器を用いた睡眠検査を行いますが、その多くはのどが塞がって起こる閉塞性睡眠時無呼吸で、いびきを伴います。顎やのどの形状、肥満が主な原因となります(下図左)。治療法は、CPAP(シーパップ)という医療機器やマウスピースを夜間に装着する方法と、のどを広げる外科手術があります。また近年、舌下神経電気刺激装置という機器を体に埋め込む手術も、新しい治療法として行われるようになりました。小児でも睡眠時無呼吸が起こりますが、夜尿の原因となったり、成長障害、注意散漫や学習能力の低下などを引き起こす場合がありますので、夜間にいびき、口呼吸、苦しそうな呼吸があるときには注意が必要です。アデノイドや口蓋扁桃肥大が原因の場合が多く(下図右)、手術による改善が期待できます。成人、小児ともに耳鼻咽喉科で鼻やのどの診察を受けることによって、最適な治療法を決めるための情報を得ることが期待できます。

睡眠時無呼吸

舌がん

 舌がんは舌にできるがんで、口腔がんの1つです。口腔がんのうちで最も多くみられます。舌の縁に発生することが多く、虫歯や義歯などによる刺激や、飲酒、喫煙が影響します。初期症状としては舌の小さな腫れやしこり、舌表面の発赤や白色変化、痛みなどがあります。口内炎と間違えて放置され進行してしまう場合がありますので注意が必要です。そのため、なかなか治らない舌の異常があるときには、耳鼻咽喉科・頭頸部外科の専門医を受診されることをおすすめします。治療は、手術、放射線、抗がん剤などを組み合わせて行います。小さいうちに発見できた場合には、舌を部分的に切除するのみで完治できる場合も多く、早期発見・早期治療が大切になります。進行している場合には、舌の大きな切除や、頸部のリンパ節の切除が必要になります。切除範囲が大きくなる場合には、嚥下構音などの機能に障害を残す危険性が高くなります。舌が大きく欠損してしまう場合には必要に応じてお腹や太もも、前腕から皮膚・筋肉を採取・移植し、失われた舌を再建します。また、術後、再発予防のために、放射線や抗がん剤の治療を行う場合もあります。

口腔がん

 口腔がんは、口の中にできるがんの総称です。口腔がんのうち、もっとも多く、よく知られているものは舌がんですが、これについては別項で述べます。舌がん以外には、歯ぐきにできる歯肉(しにく)がん、下あごの歯ぐきと舌に囲まれた部分(口腔底)にできる口腔底(こうくうてい)がん、上あごにできる硬口蓋(こうこうがい)がん、頬粘膜(きょうねんまく)がん、口唇(こうしん)がんなどがあります。歯肉がんは舌がんの次に多い口腔がんで、歯ぐきの腫れや出血、歯のぐらつきなどをきたすため、歯周病とまぎらわしく診断が遅れることがあります。口腔底がん、硬口蓋がん、頬粘膜がん、口唇がんなどは、いずれも粘膜のただれやしこり、発赤、白色変化などをきたしますが、初期には口内炎とまぎらわしいことがあります。良くならない口腔粘膜の異常があるときには、耳鼻咽喉科・頭頸部外科の専門医を受診することが大切です。
 治療は、手術、放射線、抗がん剤などを組み合わせて行います。小さいうちに発見できた場合には、病変部および周囲を部分的に切除するのみで完治できる場合もありますが、進行している場合には、顎の骨など周囲組織も含めた大きな切除や、頸部のリンパ節の切除が必要になる場合もあります。手術により組織が大きく欠損してしまう場合には必要に応じて他の部位から皮膚・筋肉・骨などを採取・移植し、再建します。また、術後、再発予防のために放射線や抗がん剤の治療を行う場合もあります。

咽頭がん

 咽頭は、大きく3つの部分に分けられます。鼻の奥にある上咽頭、口の奥にある中咽頭、喉頭の後ろにある下咽頭です。いずれの部分にもがんができますが、それぞれ特徴が異なります。
 上咽頭がんは、鼻の奥、のどの最上部に発生するがんで、耳管(中耳とのどをつなぐ管)を圧迫することによって起こる耳の閉塞感・滲出性中耳炎や、鼻づまり、鼻出血などの鼻症状で発症します。がんが進行し上方へ進展するとさまざまな脳神経の症状を引き起こします。また、首のリンパ節への転移によって気づかれることもあります。最近では、内視鏡による診察により、以前に比べて早期に発見されるようになってきました。手術が困難な部位であり、放射線や抗がん剤による治療がメインになります。
 中咽頭がんは、口蓋扁桃、軟口蓋(口蓋垂、いわゆる“のどちんこ”とその周りの軟かく動く部分)、舌根部(舌の後ろ1/3の部分)、後壁(のどのつきあたりの部分)などに発生するがんです。中咽頭がんの発生には、喫煙・飲酒との強い関連があります。また、ヒトパピローマウイルス(HPV)が中咽頭がんの発生する危険性を高めることがわかっています。早期にはのどの違和感やしみる感じなどが起こりますが無症状のこともあり、首のリンパ節への転移によってはじめて気づかれることもあります。進行するとのどの痛みやしゃべりにくい、飲み込みにくい、息苦しいなどの症状が徐々に強くなります。治療は、手術、放射線、抗がん剤などを組み合わせて行います。
 下咽頭がんは、のどの下部、食道の入り口付近にできるがんで、喫煙・飲酒と強い関連があります。高齢の男性に多いがんですが、女性で長期間の鉄欠乏性貧血がある人に発生することもあります。また、食道がんの合併率が高いことが知られています。早期には症状が軽いことが多く、首のリンパ節への転移によってはじめて気づかれることもしばしばです。早期にはのどの違和感や痛みなどの症状が見られますが、進行すると声がれ、息苦しさ、嚥下困難などの症状が出ます。また、耳の痛みを感じる場合もあります。治療は、手術、放射線、抗がん剤などを組み合わせて行います。最近では、内視鏡の進歩によって早期に発見されるケースが徐々に増えてきました。早期症例に対しては、皮膚を切らずに口の中から病変を切除する方法での治療や、放射線治療で治癒が望める場合もあり、声を出すための器官である喉頭を切除することなく治療が行えるケースも増えてきております。早期発見・治療が非常に大切であり、上記症状などがある場合には、耳鼻咽喉科・頭頸部外科の専門医にご相談ください。

咽頭がん

味覚異常

 食べ物の味が分からなくなったり鈍くなることを味覚障害といいます。ときには特定の味が分からない、何も食べていないのに変な味がするといった症状のこともあります。味覚障害の原因はさまざまですが、多くのケースで血清中の亜鉛不足が関係していることが分かっています。亜鉛不足の原因は、多い順に特発性(原因不明)、薬剤、感冒、全身疾患といわれています。鉄欠乏性貧血による舌炎や口内炎、虫歯などに伴う舌炎、脳機能の低下、心因的な要素も味覚障害の原因となります。
 味覚障害の程度は、電気刺激を用いた検査(電気味覚検査)や、各種・各濃度の味の溶液を用いた検査(濾紙ディスク法)で行います。また、血液検査で貧血の有無を調べたり、血清中の亜鉛の量を測定することで診断を行います。
 治療法は原因により異なり、亜鉛欠乏が考えられる場合は栄養指導や亜鉛剤を処方します。全身疾患・薬剤性に伴う場合は、原疾患の治療や原因薬剤の中止、変更、減量などを検討します。舌には味のセンサーである味蕾がたくさんあるので、表面についた舌苔(ぜつたい)をブラシなどで無理に取らないようにして下さい。

 

Last update: 2022年12月14日
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