一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会

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耳鼻咽喉科・頭頸部外科が扱う代表的な病気

頸部の腫れ・腫瘍

リンパ節腫脹

 頸部(くび)のリンパ節が腫脹する疾患は多くありますが、炎症または腫瘍によるものが代表的です。炎症にはウイルスや細菌の感染による急性リンパ節炎、慢性リンパ節炎などがあります。急性リンパ節炎はリンパ節腫脹の原因として頻度が高く、腫れた部位の痛みをともないますが、通常は抗菌薬や消炎鎮痛薬の投与により1~2週間で良くなります。慢性リンパ節炎のうち結核性リンパ節炎は、結核に対する治療が必要です。腫瘍のうち悪性リンパ腫はリンパ節そのものが悪性化(いわゆる「がん化」)する疾患で医学的には肉腫に分類されます。リンパ腫が頸部だけに存在しているのか、他の部位まで及んでいるのかをまず診断した上で、抗がん剤などによる治療を行います。他の部位のがんがリンパ節に移行して腫脹するリンパ節転移の場合は、もとのがんとともに転移リンパ節を治療する必要があります。この他、伝染性単核球症、亜急性壊死性リンパ節炎、サルコイドーシスなど、結核や悪性腫瘍と同様に見逃してはいけない疾患もあり、注意して取り扱う必要があります。

唾液腺腫瘍

  唾液腺は唾液を産生する臓器です。大きく分けると耳の前にある耳下腺、顎の下にある顎下腺、舌の下にある舌下腺があります。耳の下や顎の下が腫れたとき、耳下腺腫瘍や顎下腺腫瘍の可能性があります。それぞれに良性腫瘍と悪性腫瘍があり、良性腫瘍では腫れ以外の症状はほとんどありませんが、悪性腫瘍では顔面神経が麻痺したり、腫れた部位が痛くなることもあります。良性の場合は手術による腫瘍の摘出が代表的な治療法で、特殊な場合を除き、命にかかわることはありません。一方、悪性の場合は生命を脅かす危険があります。唾液腺にできた元々の腫瘍の他、リンパ節転移やその他の臓器への転移を考慮した治療が必要で、腫瘍の広がりに応じた手術、さらには抗がん剤、放射線などを総合的に組み合わせた集学的治療が行われます。また、唾液腺には耳下腺、顎下腺、舌下腺以外に口の中などにある小さい唾液腺があり、これらからも良性、あるいは悪性の腫瘍が発生することがあります。

唾液腺腫瘍

頸部嚢胞

 嚢胞(のうほう)とは袋状の病的な構造物で、上皮に覆われた固有の壁を持ち、内腔には液体成分が充満しています。嚢胞は体にできる水風船の様なものです。頸部では側頸(そくけい)嚢胞、正中頸(せいちゅうけい)嚢胞、リンパ管腫、皮様(ひよう)嚢腫、類上皮腫などさまざまな種類の嚢胞が発生します。通常、症状は頸部の腫れのみで、炎症をともなうと痛みや周囲組織との癒着が出現してきます。針を刺して溜まっている液体成分を吸引することもありますが、効果は一時的でまた液体成分が溜まってしまうことが多いです。根本的な治療としては手術による嚢胞の摘出が最も一般的に行われます。嚢胞壁が薄いリンパ管腫では薬剤注入が選択されることもあります。また、まれですが鰓性(さいせい)がんと呼ばれる悪性の嚢胞がみられます。本来は内部に液体成分のない腫瘤でもその一部または全部が液体化して嚢胞性となることがあり、その中には転移リンパ節など悪性疾患も含まれるので、嚢胞と思われた場合も最終診断が得られるまでは対応に十分な注意を払う必要があります。

甲状腺腫瘍

 首の前に触れる“のどぼとけ”(甲状軟骨)のすぐ下のところに甲状腺があります。気管の表面を取り囲むように存在し、通常、首を触れただけではその存在は分かりません。甲状腺は生命活動維持や体内のカルシウム調節に欠かせないホルモンを分泌する重要な内分泌臓器です。甲状腺腫瘍は甲状腺に由来する腫瘍の総称です。多くの場合自覚症状は認められませんが、首の前に比較的堅い腫瘤として触知することができます。嚥下した際には、その動作に連動して上下に移動する固いしこりとして触れることができます。腫瘍径が大きくなると首の前の隆起として容易に確認できるようになります。甲状腺腫瘍には良性腫瘍と悪性腫瘍があり、いずれも手術治療が第一選択となります。最近は、良性腫瘍では特にサイズの大きいものや自覚症状の強いものを除いて、経過観察となる場合が多くなっています。一方、悪性腫瘍はその7割は予後が良好なものであり、完全摘出すれば治癒となる症例が多いと考えられています。

Last update: 2022年12月14日
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